借地権付きの建物に住んでいる人が、建物の売却をしたいと考えた場合、どのような方法があるでしょうか?
この記事では、借地権付きの建物を売却する方法と注意点について解説します。

借地権付きの建物を売却するにはどうすればよいか?
借地権付きの建物を売却するには、以下4つの方法があります。
地主の承諾を得て第三者に売却する
建物が建っている土地の所有者(以下、地主)の承諾を得て、第三者に売却する方法です。
借地権(建物が建っている底地を利用する権利)の売却には、地主の承諾が必要です。
地主に無断で借地権の譲渡や転貸をすることは民法で禁止されており、借地人がこれに違反して第三者に譲渡・転貸したときは、地主は契約を解除できると規定されているからです(民法612条)。
そのため借地権付きの建物の売却には、必ず地主の承諾を得なければいけません。
法律上、賃借物を無断で他の人に使用させてはいけませんが、地主の承諾があれば、他の人に賃借権を譲渡(売却)したり、転貸したりできます。
地主に建物を買い取ってもらう
地主に建物を買い取ってもらう方法です。
地主に建物を買い取ってもらえれば、借地人にとって最もスムーズでしょう。
地主が別の用途で土地活用を検討している場合や、土地の売却を検討している場合などには、地主にとっても建物を買い取るメリットがあるでしょう。
ただし、地主が土地を貸している主な目的は、地代を得ることによる継続的な収入です。そのため、地主が自らお金を支払ってまで土地を取り戻す必要性を感じていない場合、交渉が進まないこともあります。
契約期間満了が迫っている場合には、契約が終了するときまで待って、建物買取請求権を行使する方法もあります。
地主から底地権を買い取る
地主から底地権を買い取る方法です。
地主から底地を買い取れれば、土地と建物を一括で売却できるため、第三者への売却がスムーズにできる可能性があります。借地権付き建物のみを売却する場合に比べ、売却金額も高くなる可能性があるでしょう。
ただし、地主が土地を手放したくない場合や売却に消極的な場合は、交渉が難航することがあります。
裁判所に土地賃借権譲渡許可を申立てる
裁判所に土地賃借権譲渡許可を申立てる方法です。
地主との関係がもともと悪かったり、話し合いがこじれたりして、借地権付き建物の売却について地主の承諾を得られないこともあるでしょう。
このようなときは、裁判所に土地賃借権譲渡許可を申立てることにより、地主の承諾に代わる許可を得られる場合があります。
裁判所の許可を得るための要件
裁判所に対し、地主の承諾に代わる許可を求める場合には、第三者が賃借権を取得しても、借地権設定者(地主)に不利となるおそれがないことが必要です(借地借家法19条1項)。
地主に不利となるおそれがないかどうかは、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。
- 借地権の残存期間
- 借地に関する従前の経緯
- 借地権の譲渡を必要とする事情
- その他一切の事情
譲受人の資力や人的信頼性、社会的属性も判断に影響を与えます。
地主は土地を貸して賃料を受け取っているため、勝手に知らない人に借地権が譲渡されたら困るでしょう。
普通借地権は、最低でも30年の契約期間となるので、賃料の未払いを防ぐためにも、地主は建物の譲受人に賃料を支払う資力があるかどうかを見極めなければいけません。
裁判所の許可を得るまでの流れ
土地賃借権譲渡許可の申立ては、土地が所在する住所地を管轄する裁判所に提出します。
その後の流れは概ね以下のとおりです。
- 第1回審問期日が設定され、裁判所は当事者双方から事情をヒアリングします。必要に応じて審問期日は複数回行われます。
- 裁判所が鑑定委員会に借地権の譲渡許可の可否等について意見を求めます。
- 鑑定委員会が裁判所に意見書を提出します。
- 裁判所は提出された意見書を当事者に送付します。
- 裁判所は最終審問期日を設定し、当事者から意見を聞き審理が終了します。
- 裁判所が決定書を当事者に送付します。
借地権付き建物を第三者に売却する場合の注意点
借地権付き建物を第三者に売却する場合、以下2つの注意が必要です。
承諾料(名義書換料)が発生する
借地権付き建物を第三者に売却する場合、地主に対して承諾料(名義書換料)が発生します。
地主が借地権の譲渡を承諾する対価として支払われるもので、相場の金額は借地権価格の10%程度です。
裁判所が借地権の譲渡を許可した場合でも同程度の支払いが命じられるのが一般的です。
借地権の価格は、以下の計算式で求めます。
更地価格×借地権割合 |
借地権割合は、国税庁の公式ホームページにある路線価図・評価倍率表で確認ができます。
地主から敷金返還請求権の譲渡等を求められる場合がある
地主の承諾を得て借地権付き建物を第三者に売却する場合、敷金に関して、以下のいずれかの対応を求められることがあります。
- 敷金返還請求権もともに譲渡する
- 新借地人が敷金を差し入れるまでは、旧借地人の敷金をもって新借地人の債務を担保する
借地権を譲渡した場合でも、敷金は自動的に新しい借地人に引き継がれるわけではありません。
そのため、地主側から、「旧借地人の敷金返還請求権を新借地人に譲渡しないと借地権譲渡を承諾しない」と求められることもあります。
なお、裁判所に地主の承諾に代わる許可を求める場合は、裁判所は、新たな借地人に敷金を預託させるのが一般的です。
借地権付きの建物を売却する際は弁護士に相談を
借地権付きの建物を売却する際は、弁護士に相談することをお勧めします。
借地権の売却には地主の承諾が必要となるため、慎重に話を進めなければいけません。日頃から地主との関係があまりよくない場合は、話がこじれる可能性があるので弁護士に交渉してもらったほうがよいでしょう。
地主の承諾が得られず、土地賃借権譲渡許可の申立てをしなければならない場合も、弁護士に依頼をすれば手続きをスムーズに行えます。
まとめ
不動産を売却する際、土地と建物の所有者が同じであれば手続きがスムーズにできますが、借地権のように土地の名義が別であれば、注意すべき点がいくつかあります。
借地権付きの建物の売却を検討している場合は、不動産に詳しい専門家に事前に相談することをおすすめします。