立ち退き問題は、権利関係や正当事由の有無などを巡って複雑化しやすく、感情的な対立に発展するケースも珍しくありません。こうした対立が先鋭化すると、当事者同士の交渉だけでは解決が困難になることもあり、第三者によるサポートが求められます。
そこで注目されるのが弁護士の法的サポートです。交渉や訴訟といった場面では、法的手続きを踏まえた的確な主張が必要となるため、弁護士を依頼することでトラブルを早期解決しやすくなります。
本記事では、立ち退きにかかる弁護士費用の種類や相場、費用を抑えるコツ、さらに依頼から解決までの流れをわかりやすく解説します。貸主・借主いずれの立場であっても、納得のいく結果を得るためにぜひ参考にしてみてください。
立ち退き交渉で弁護士への依頼を検討するケースは?
立ち退き交渉は、当事者間の話し合いだけで合意に至らないケースが多くあります。特に、賃貸借契約に関する法的な考え方や正当事由の理解が不十分なままだと、どちらか一方が一方的に話を進めようとしてトラブルが深刻化しがちです。そうした状況では、弁護士を交えて交渉するのがよいです。どのような場合に弁護士への依頼を検討したほうがよいか、典型的なケースを押さえておきましょう。
正当事由が争点となる場合
正当事由が争点となる場合、弁護士への依頼を検討したほうがよいでしょう。
立ち退きの正当事由があるかどうかは、法律で定められた要件を満たすかがポイントです。例えば、建物の老朽化や再開発計画など、正当な理由があるかどうかは、争いになりやすい点です。弁護士が関与すれば、賃貸借契約の内容や証拠資料をもとに正当事由の有無を適切に整理できます。話し合いでまとまらなかった場合でもスムーズに法的手続きへ移行できます。
正当事由を主張する側とそうでない側では、それぞれに必要な証拠や論点が違うため、早めに弁護士のアドバイスを得たほうが解決までの近道となるでしょう。
立退料の金額が高額になる可能性がある場合
立退料の金額が高額になる可能性がある場合、弁護士への依頼を検討しましょう。
立ち退きに関しては、借主の営業の継続性や住居確保の問題などから、高額な立退料が提示されるケースがあります。特に店舗やオフィスが対象の場合、事業への影響を考慮する必要性から立退料が高額になることは珍しくありません。
弁護士に依頼すれば、妥当な立退料の算定根拠を具体的に示せるため、相手との条件交渉において有利に立ち回りやすくなります。店舗やオフィスを移転するにあたっての損失や引っ越し費用など、各種費用を詳細に積算していく作業は、専門家のノウハウが役立ちます。
不可解なほど高い立退料を要求された際にも、弁護士であれば法的観点から適切に対抗できます。
感情的な対立で話し合いが難航する場合
感情的な対立で話し合いが難航する場合、弁護士への依頼を検討しましょう。
立ち退き交渉は、長年住んでいた場所への愛着や仕事への思いなど、感情面が複雑に絡み合っています。そのため、第三者を介さない話し合いでは解決が遠のくことがあります。弁護士を間に立てれば、主観的な意見や不信感が抑えられ、冷静な議論に集中できます。法的に頼れる専門家の存在が当事者の気持ちを和らげ精神的ストレスを軽減し、解決へと導きやすくなります。
立ち退きにかかる弁護士費用の種類は?
弁護士へ依頼する場合に発生する費用は、いくつかの種類に分かれています。ここでは、代表的な項目を整理してみましょう。
相談料
相談料は、弁護士との最初の面談で必要です。一般的に30分から1時間で数千円から数万円かかります。金額は弁護士事務所によって差異がありますが、事務所によっては初回相談を無料で対応しています。時間制の場合は追加料金が発生するため、事前に質問内容をまとめてから臨むなど、効率的な利用を心がけましょう。
着手金
着手金は、正式に弁護士に依頼して業務を開始してもらう際に支払う費用です。業務全体の見込みとリスクを考慮して設定されることが一般的で、依頼内容の複雑さや予想される利益額によって変動します。
立退料の金額や裁判の可能性など、リスクが高い場合は着手金が高額化するケースがあります。着手金を低めに抑えて、成功報酬でバランスをとる形態を採用している事務所もあります。
着手金は、納得できない結果になったとしても返金されません。そのため着手金の決定方法や支払時期について、事前に十分な説明を受けると安心です。
報酬金(成功報酬)
報酬金は、交渉が成立して立退料を得られた場合や裁判で勝訴を勝ち取った場合に支払う費用です。得られた利益の何%といった形で設定されることが多く、実際の金額は事前に契約書で取り決められます。
例えば、立退料が増額された分に対して報酬金が発生するという仕組みなら、借主にとっては成果に応じた支払いで済むため、費用対効果が明確になりやすいメリットがあります。ただし、報酬金の割合によっては思った以上に費用がかかる場合もあるので、総額を試算してから契約することをおすすめします。
実費
弁護士が業務を行ううえで必要となる交通費や通信費、裁判所の手数料などは、実費として別途請求されます。これらは案件の進捗状況や手続き回数によって変動しやすい費用です。
特に裁判に移行した場合には、通信費や証拠収集のための費用が増加する可能性があります。想定よりも出費がかさむケースもあるため、どのような場面でどの程度実費が生じるのか、事前に確認しておくと安心です。弁護士費用総額を把握するうえで、この実費部分の見積もりは重要です。契約書や費用説明で詳細を聞くようにしましょう。
弁護士費用の相場は?
住宅の立ち退きに比べて、テナントやオフィスのケースでは、弁護士費用が高くなる傾向があります。これは、賃料や事業規模、予想される損害額が大きいことが背景にあります。
ここでは、住宅向けとテナントやオフィス向けにおける着手金や報酬金の一般的な目安を簡単に紹介します。
住宅の立ち退きでの費用相場
住宅の立ち退き交渉では、立退料が高額になりにくいため、着手金は25万円程度からスタートする事務所も少なくありません。報酬金に関しては、獲得した立退料の数%程度を設定することが多いです。
ただし、実際の金額は地域の賃料水準や物件の形態、さらには退去を含む交渉の難易度によって左右されます。物件が老朽化しているなど、法的に正当事由を主張しやすい場合は、弁護士費用が比較的低額に収まることもあります。
テナントやオフィスの立ち退きでの費用相場
テナントやオフィスといった事業用物件の立ち退きでは、立退料が高額になるケースが多いため、着手金もやや高めに設定される傾向があります。報酬金においても単純なパーセンテージ計算ではなく、事務所によって独自の計算方法が用いられる場合があります。
例えば、大手企業が入居しているオフィスビルの立ち退きの場合、立退料が数百万円以上になることもあり、それに応じて弁護士費用も変化する可能性があります。
弁護士費用を相手に請求できる?
一般的には、裁判での請求が認められた場合を除き、相手方に弁護士費用を全額負担させることは難しいです。自分の弁護士費用は基本的に自己負担が前提です。交渉や裁判で一部負担を引き出せればラッキーくらいの意識でいるほうが、計画倒れにならずに済むでしょう。
弁護士に依頼する3つのメリットは?
立ち退き問題を弁護士へ依頼する3つのメリットについて紹介します。
適正な立退料を査定し交渉ができる
弁護士は、適正な立退料を査定した上で交渉ができます。
立退料の金額設定は、物件の状況や借主の利益を総合的に評価して算定する必要があります。弁護士はそうした点を踏まえて、説得力のある査定が行えます。誤った算定によって過大な金額を要求して相手方を挑発してしまったり、逆に低すぎて損をしてしまったりする事態を避けるためにも、弁護士のアドバイスがあると安心です。法的な根拠づけをもとに交渉を行えば、相手との妥協点を探りやすくなる点もメリットといえます。
訴訟リスクに対応ができる
弁護士は、訴訟リスクがある場合に適切な対応ができます。
交渉が決裂した場合や、どちらか一方が訴訟の手続きを選んだ場合、裁判所での手続きがスタートします。訴状や証拠書類の準備が欠かせませんが、複雑さに戸惑う方も多いでしょう。
弁護士は訴訟手続きの手順や書式を熟知しており、論点も的確に整理してくれます。そのおかげで、短期的にも長期的にも効率的に手続きを進行できます。特に、相手方が手強い主張をしてきた場合、法的視点での反論が可能となり、有利な証拠をうまく活用できるのは強みです。
精神的負担が軽減される
弁護士に依頼すれば、精神的負担が軽減される可能性があります。
立ち退き交渉では、当事者同士が直接話し合うと感情的になり、意見の食い違いから衝突が激化しやすいです。弁護士が間に入れば相手との折衝をスムーズに行い、精神的負担が軽減できます。
交渉が長引くほどストレスや費用が増加するリスクもあるため、できる限り短期間で結論を出すことが望ましいです。弁護士が交渉窓口となれば、日程調整や書類作成などの細かな作業も代理人として行えるため、余計な時間を割かずに済むメリットがあります。
貸主・借主別に考える弁護士に依頼すべきポイントは?
弁護士費用は、置かれている立場によって留意すべき点や適正費用の基準が異なります。貸主(大家)側と借主(テナント)側では、立退料の決め方や正当事由の主張内容、弁護士費用の負担などに違いがあります。自分が置かれている立場に合わせて、どのように戦略を立てるかが重要です。
特に事業用物件の場合は、貸主も借主も経営判断が関わってくるため、金銭面だけでなくタイミングや移転先の確保など、考慮すべきポイントが増加します。以下では、貸主と借主それぞれの視点に分けて、注意すべきポイントをまとめました。
貸主側の視点
貸主側が立ち退きを求める場合は、法的に認められる正当事由の有無が焦点です。老朽化に伴う建て替えや、自己使用のための明け渡しなどが一般的な正当事由ですが、証拠や具体的な計画を示さねばなりません。
立退料の提示額が低すぎれば、交渉が難航して裁判まで進むリスクが高まります。大幅な立退料を提示すると自分の負担が大きくなりすぎるため、適正なラインを見極める必要があります。
弁護士に相談することで、正当事由の主張方法や立退料の相場感を把握し、スムーズに契約解除や明け渡しを実行しやすくなります。
借主側の視点
借主は、退去が迫られた際に立退料が低すぎるのでは…と感じることがあります。退去後の移転コストや、ビジネスに与える損失を補填するために増額交渉する必要も生じます。
弁護士に依頼すれば、損害や移転費用など具体的な根拠を示して立退料の引き上げを主張できる可能性が高まります。特に、裁判になった場合でも専門的な資料を提出しやすいため、戦略的に行動できるでしょう。
借主の立場では、現行契約の内容や更新料の扱いなど、原状回復責任との兼ね合いも考慮しなければいけません。こうした問題についても弁護士が整理してくれるため安心です。
弁護士への依頼から立ち退き完了までの流れ
弁護士に依頼してから実際に明け渡しに至るまでの流れを大まかに確認しておきましょう。
弁護士に初回相談をして方針決定する
弁護士に初回相談を行い、現在置かれている状況を詳しく説明します。相手方との主張の違いや、想定している立退料の範囲などを具体的に伝えることがポイントです。
相談結果を踏まえて弁護士と協議し、交渉で解決を目指すのか、最悪の場合には裁判も視野に入れるのかといった方針を決定します。ここで費用の目安や必要な証拠書類なども確認しておくと良いでしょう。
最終的な依頼を決めたら、正式な委任契約を締結します。着手金の支払いなどの手続きもこのタイミングで行うことが一般的です。
交渉・調停・訴訟の順に進める
弁護士が受任した後は、相手方との交渉や調停による解決が試みられます。話し合いの席では、弁護士が代理人となって交渉を主導し、公平かつ専門的視点で条件の整合性を探ります。
調停でも合意が得られない場合、裁判所での訴訟に進むことになります。訴訟では、訴えの提起や書面のやりとりを経て証拠を提出し、最終的に判決が下される流れです。
裁判の場合でも、和解のタイミングは随時設けられます。意見や条件がまとまれば、和解調書を作成して解決となります。
合意書の作成と明け渡しをする
交渉や訴訟で合意に至ったら、その内容を文書化した合意書や和解調書を作成します。ここで、立退料の金額や支払い日程、実際の明け渡し期限など具体的な条件を盛り込むことで、お互いの義務と権利を明確化します。
合意後は明け渡しに向けた実務的な準備が必要です。引っ越しや店舗移転など、事前に調整しておかなければならない問題も多いですが、弁護士に相談しながら進めれば混乱を最小限に抑えられます。
最終的に退去が完了した段階で一連の手続きは終了となります。合意書の取り決めに不履行があった場合、さらなる法的手段を検討する可能性もありますが、弁護士と協力しておけば迅速に対応できるでしょう。
弁護士を選ぶときに確認すべきポイント
実績や料金など、弁護士を選ぶ際に確認しておきたい項目を明確にしましょう。
不動産・立ち退き案件の実績を確認する
過去にどの程度の立ち退き交渉・訴訟を取り扱ってきたかは、弁護士選びのポイントです。経験豊富な弁護士は、裁判所の傾向や交渉の落としどころを把握している可能性が高いです。
実績が豊富な事務所であれば、ケーススタディが蓄積されており、スピーディーに法律戦略を立案してもらえます。問題点の洗い出しも効率的になるでしょう。
不動産分野の経験が乏しいと、適切な根拠付けや主張が弱くなることもあるため、依頼前にしっかりヒアリングすることが大切です。
料金体系の透明性か確認する
着手金・報酬金・実費などの内訳が事前にしっかりと説明されているかを確認しましょう。特に、成功報酬の割合や実費の見込みが不透明だと、後から請求が増えてトラブルに発展する可能性があります。
明朗会計を掲げている事務所であっても、必ず契約書に具体的な数字や条件が記載されているかをチェックしましょう。少しでも疑問点があれば遠慮なく質問するのがおすすめです。
裁判に進むリスクが高い案件ほど費用が変動しやすい面があるため、どの段階で費用が増減するのかをあらかじめ把握しておくと安心です。
対応がスピーディーかどうか確認する
立ち退き交渉は時に迅速な対応が求められる場面もあるので、弁護士や事務所の連絡体制を確認しておいた方がいいでしょう。メールや電話、オンライン会議など、どの手段に対応しているかも重要です。
相談した内容に対する返信のスピードが遅いと、相手方との交渉でもタイミングを逃してしまうリスクがあります。スピード感を重視してくれる弁護士だと、ストレスなく進められます。
事務所の体制として、担当弁護士に加えてスタッフや他の弁護士がフォローしてくれるかどうかという点も、安定したサポートを受けるうえで大切です。
立ち退きと弁護士費用に関するよくある質問(Q&A)
立ち退きと弁護士費用に関して、よく寄せられる疑問点をまとめました。具体的な事情によっては回答が異なる場合もあるため、最終的には個別相談が望ましいことを頭に入れておきましょう。
立退料と弁護士費用の違いは何?
立退料は、建物の所有者が退去する借主に対して支払う補償金や移転費用のような性格を持っています。弁護士費用は、法律の専門サービスに対して支払う対価という点で性質が異なります。
立ち退きの際に借主が受け取る立退料を弁護士費用に充てること自体は可能ですが、タイミングや金額が合わないと資金繰りが難しくなる場合もあるため注意しなければいけません。立退料と弁護士費用の支払い義務が混同されないよう、契約書や合意書で明確に区別しておくことがトラブル防止に役立ちます。
弁護士費用の分割払いは可能?
弁護士費用を一括で支払うのが難しい場合、分割払いに応じている事務所もあります。特に、着手金をある程度まとめて支払い、残りを分割で払うなどの方法が一般的です。
ただし、事務所によっては分割払いや立替制度の利用ができない場合もあるため、契約前の相談で確かめましょう。弁護士費用が原因で諦めるよりは、支払いプランを固めて不利な交渉を回避するほうが得策です。まずは気軽に弁護士へ相談してみましょう。
弁護士なしでも交渉できる?
法律上、弁護士がいなくても自分で交渉・手続きを進めることは可能です。相手との話し合いで円満にまとまれば、費用もかからず済むかもしれません。
しかし、正当事由の証明や立退料の査定、訴訟対応など、複雑な場面が多いのが現実です。適切に対処しないと、結果として不利な合意を結んでしまう可能性が高まります。大きな金額や長期にわたる賃貸契約が絡む場合には、将来のリスクを考慮して弁護士のサポートを検討することをおすすめします。
まとめ
立ち退きは借主・貸主の双方にとってデリケートな問題であり、感情的な対立や法的な紛争に発展するケースが多々見受けられます。弁護士に依頼すれば、公正かつ専門的な視点から交渉を進められ、円滑な解決に導きやすくなります。
ただし、弁護士費用は決して安いものではありません。費用を抑えるためには、無料相談、部分的に依頼するなどの方法を検討するほか、複数の事務所から見積もりを取って最適な選択肢を探しましょう。依頼者自身の状況や優先順位に合わせた費用対効果の高い方法を見つけることが重要です。適切なアドバイスを得て、納得のいく立ち退き解決を目指しましょう。
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