建物の老朽化などで賃借人に立ち退きを求める際、拒否されたらどうしようと悩む人もいらっしゃると思います。
この記事では、賃借人に立ち退きを拒否されないための交渉方法とコツ、万が一拒否され続けた場合に取るべき手段について解説します。

立ち退きを拒否されないための交渉方法は?
賃貸人側から更新拒絶または解約を申し入れる場合には、正当事由が必要です。
正当事由が存在するかどうかは、以下の点を考慮して判断されます。
- 賃貸人および賃借人が建物の使用を必要とする事情(居住の必要性、建替えの必要性など)
- 建物の賃貸借に関する従前の経過(賃貸借契約の経緯や賃料額の相当性・改定状況など)
- 建物の利用状況(建物の種類や用途に従った利用がなされているか等)
- 建物の現況(建物の築年数、朽廃の程度、大規模修繕の必要性等)
- 財産上の給付の申し出(立退料の提供、代替家屋の提供等)
つまり、賃貸人側の事情を押し付けるだけでは、正当事由が存在しないとして、賃借人から立ち退きを拒否される可能性があります。
したがって、賃借人に立ち退きを求める場合には、以下4点に留意して交渉しましょう。
立ち退きを求める理由を正確に説明する
立ち退きを求める理由を賃借人に対して正確に説明しましょう。
建物が老朽化してきたから建て直したい、賃貸物件を売却したいなど、立ち退きを求める具体的な理由を示さなければ、賃借人の承諾が得られない可能性が高いからです。
口頭で立ち退きを求めても構いませんが、文書で伝えたほうが立ち退きを求めたことを証拠として残せるのでおすすめします。
賃借人が抱える事情をヒアリングする
賃借人が抱える事情をヒアリングしましょう。
賃貸人の事情だけを一方的に主張してしまうと立ち退きを拒否される可能性が高くなるからです。
長期間にわたって賃貸契約を結んできた人であれば、その場所を気に入って住んだり営業をしてきたりしたと思います。そうした事情に耳を傾け、寄り添う姿勢が重要です。
立ち退き料を提案する
適切な立ち退き料を提案しましょう。
賃借人が家賃を滞納しているなどの重大な契約違反がない限り、立ち退きを求める場合は立ち退き料が必須だからです。立ち退き料は、賃貸人側の事情で賃貸借契約を更新しない場合に、正当事由を補完する目的で、賃貸人が賃借人に対して支払う金銭です。
法律上、賃借人の地位は保護されており、賃貸人から一方的に契約の解除や更新拒絶ができません。
先述した①立ち退きを求める理由を正確に説明する、②賃借人が抱える事情をヒアリングする、③適切な立ち退き料を提案するという3つがそろえば、立ち退きに正当な理由があると判断される可能性があります。
解決案を文書で提示する
賃借人が抱える事情に対して、解決案を文書で提示しましょう。
賃借人に寄り添う姿勢をみせることで、話し合いの場が設けられるからです。
賃貸人の都合だけではなく賃借人の事情にも耳を傾け、解決しようとする歩み寄りを見せれば、賃借人も立ち退きに対して前向きに検討してくれる可能性が出てきます。
喧嘩腰になるのではなく、相手の気持ちに配慮した文書を提示してコミュニケーションを図りましょう。
立ち退きを拒否され続けたら取るべき手段は?
あらゆる手段を尽くしても、賃借人に立ち退きを拒否され続けたら、法的手段を取ります。双方の話し合いで解決できないのであれば、最終的には司法に判断を委ねるしかないからです。
まずは賃借人に対して、契約解除通知もしくは契約更新拒否の通知をします。
それでも立ち退きに応じてくれない場合は訴訟による解決を目指します。裁判になった場合、立ち退きを認める判決が出るとは限りませんので、双方で妥協点を見つけて、和解する方向で動く場合が多いです。
立ち退きを拒否されないコツは?
立ち退きを拒否されないためのコツは以下の4点です。
立ち退きの依頼を早めにする
立ち退きの依頼は早めに行いましょう。
契約期間満了の1年前から6か月前までの間に書面で契約更新をしない旨を通知しなければ、更新したとみなされるからです(借地借家法26条1項)。そのため、遅くとも6か月前までに、できれば1年前に更新をしない旨の通知ができるよう準備しましょう。
賃借人が求めていることに対して誠実に対応する
賃借人が求めていることに対して誠実に対応しましょう。
賃借人が立ち退きを拒否するにはそれなりの理由があるからです。
賃借人が立ち退きを拒否する主な理由として、3つのケースを例に挙げて対応方法を解説します。
今の物件が気に入っている
今の物件が気に入って引っ越したくないと考えているケースです。
この場合、どんな点が気に入っているのか賃借人からヒアリングしましょう。近隣で似たような物件を探して紹介・斡旋することで、立ち退きに応じてくれる可能性があります。
転居する手間をかけたくない
引っ越しは手間とお金がかかるので行いたくないと考えているケースです。
この場合は、立ち退き料に引っ越し費用などの諸経費分を上乗せすることで、立ち退きに応じてくれる可能性があります。
転居する物件が見つかるか不安に思っている
転居する物件が見つかるかどうか不安に思っているケースです。
特に高齢者は賃貸物件への入居が困難なため不安に感じる人が多いです。
この場合は、確実に入居できる物件を紹介したり斡旋したりすることで、立ち退きに応じてくれる可能性があります。
立ち退き料をケチらない
立ち退き料をケチるのはやめましょう。
極端に低い金額を提示すると、賃借人が不信感を抱き、交渉が難航するおそれがあるからです。
立ち退きを求める場合、多くのケースで立ち退き料がかかります。なるべく少ない金額で抑えたいと考える気持ちは分かりますが、あまりにも誠意のない金額を提示するのは避けなければいけません。
賃貸アパートやマンションの場合、以下の計算式をもとに立ち退き料を算出し、細心の注意を払いましょう。
(移転先の家賃―現在の家賃)×1年から3年+新規契約費用+引っ越し費用 |
店舗や事務所の場合は、以下の計算式をもとに立ち退き料を算出します。賃貸アパートやマンションと違って、休業補償や改装費用についても考慮しましょう。
(新規賃料―現在の賃料)×数年+移転費用+新規契約費用 |
日頃から賃借人と良い関係を築いておく
日頃から賃借人と良好な関係を築いておきましょう。
賃借人が賃貸人に対して良い印象を持っていれば、立ち退きを求めた場合にやむを得ない事情があるのだろうと理解を示してくれる可能性があります。ちょっとしたことで人間関係は良くも悪くもなりますので、適度な距離感を保ちながら関係を構築していきましょう。
立ち退きを拒否されたら弁護士に相談を
賃借人に立ち退きを拒否されるのではないかと不安に思っている、すでに拒否をされてしまったら弁護士への相談をおすすめします。弁護士が立ち退き交渉をするメリットは以下のとおりです。
適切な立ち退き料が提案できる
弁護士であれば、過去の経験から適切な立ち退き料が提案できます。
どのぐらいの金額がかかるのか、事前におおよその金額を把握できるのは安心です。
冷静な話し合いが期待できる
弁護士であれば、感情的な話し合いになることが少ないため、賃借人との冷静な話し合いが期待できます。
賃借人も弁護士が代理人として対応すれば、頑なに立ち退きを拒否していたとしても譲歩する姿勢を見せる可能性があります。
裁判になった場合に代理人として対応できる
賃借人が立ち退きを拒否し続け、裁判になった場合も、弁護士であれば代理人として対応が可能です。
裁判になると、裁判所に提出する書類を準備するなど時間と手間がかかるので、弁護士に任せたほうが安心です。
まとめ
立ち退きを賃借人に求めるのは、精神的にプレッシャーがかかることだと思います。特に長年賃貸借契約を結んできた相手であればあるほど、言い出しづらいのではないでしょうか。
立ち退きを求めるのなら、時間的に余裕を持ってことを進めるのが肝要です。そして一方的に自分の事情を押し付けるのではなく、相手に寄り添いながら話し合いを進めていきましょう。