賃借人が家賃を滞納して何か月も立っている、あるいは行方不明。退去してほしいけれど、どういう段取りを踏めばよいのかわからない。
このようなお悩みを抱える家主様も少なくないと思われます。
そこで今回は、賃借人を合法的に退去させられる建物明渡請求の流れについて解説します。

物件の調査
実際に請求を行う前に、物件の現況について調査をします。
調査をするのは、主に以下の項目になります。
当該物件に借主がまだ居住しているか
当該物件に借主がまだ居住しているか確認します。
既に秘密裏に退去しているケースでは、その後の請求は必要なくなります。
しかし、残置物がある場合には、その中身や量次第で請求を行う必要があるので、これを明らかにする必要があります。
附属物の有無
例えば、車庫や物置などの付属建物がある場合にはそれも明渡しの対象になるので、それらの有無をしっかり確認する必要があります。
固定資産評価額
建物明渡請求訴訟を提起する場合、手数料の金額は固定資産評価額を基準として算定されることとなります。
そのため、最新の固定資産評価額を知る必要があり、場合によっては固定資産評価証明を取得する必要が生じます。
内容証明の送付
調査の結果、まだ賃借人が賃貸建物に居住していることが分かった場合には、すぐに訴訟を起こすのではなく、ひとまず内容証明を送付して、未払賃料の請求と契約解除の意思を表明します。
建物の賃貸借契約に関しては、3か月分の家賃滞納があれば解除が認められや少なるのが実務の取扱いです。
そのため、内容証明を送付する際には、相当の期間内に賃料を支払うよう催告したうえで解除の意思表示をすることが必要となります。
内容証明を送付すると、賃借人側の事情を聞いて話し合いを行える機会となることがあります。例えば、滞納家賃を分割払いしてもらうことにして明渡を回避したり、明渡を前提として、退去時期を調整することも行われます。
内容証明の送付は、後に建物明渡請求訴訟を起こす際に、既に解除の意思を表明したことの証拠となります。その意味でも内容証明の送付は重要といえます。
占有移転禁止の仮処分
家賃を滞納しているケースでは、賃借人が多重債務に陥って行方不明になっており、かわりに得体の知れない第三者が賃貸物件を占有している場合もあります。
このような場合、物件の明渡しを妨害するために、この第三者がさらに他者に対して占有を故意に移すこともあります。
明渡の判決を得る前に、他の人に占有が移ってしまうと、判決の効力が及ばず意味がなくなってしまいます。
そのため、占有移転禁止の仮処分の手続を行って、賃貸物件の占有が転々と他人に移っていくのを防ぐ場合があります。
建物明渡請求訴訟
賃借人が話し合いや交渉に応じない、あるいは行方不明の場合には、裁判所に建物明渡請求訴訟を提起します。
実務上は、建物明渡の請求と併せて未払賃料及び明渡までの賃料相当分の金員の請求を行うことが多いです。
建物明渡請求訴訟では送達に手間取ることが多い
建物明渡請求訴訟の提起には、上記のような事情がある場合が多いため、訴状の送達に手間取り、時間がかかることが多いという特徴があります。
訴状は、正本と副本を裁判所に提出し、裁判所から第1回の裁判の期日の連絡とともに、被告(賃借人あるいは現在の占有者)に副本が送達されます。
訴状の送達は、原則として、本人や家族の受け取りが必要とされていますが、建物明渡請求訴訟の場合は、物件に賃貸人や占有者が居住している場合でも、居留守を使うなどして受領しないことが少なくありません。
訴状の送達は平日に行われ、これで送達ができなかった場合には、申立てにより、土日などの休日に行われます。それでも送達ができなかった場合は、賃借人や占有者の就業先が明らかであれば、申立てにより就業先への送達を行います。
就業先が不明な場合や功を奏しなかった場合には、申立てにより、付郵便といって、訴状の発送の事実をもって相手方の受け取りの有無にかかわらず送達されたとみなす方法が実施されます。
そして、付郵便を実施する前提として、当該物件に実際に賃借人や占有者が居住しているかどうかの調査を賃貸人側で行い、その調査結果を裁判所に提出することが必要となります。
調査の結果、付郵便が相当でないと判断される場合や、賃借人・占有者が行方不明の場合には、公示送達をするよう裁判所に申し立てます。公示送達は、具体的には裁判所の掲示板に訴状を掲示し、その日から2週間経った時点で訴状の送達があったこととする制度です。
このように建物明渡請求訴訟は、実際の裁判が始まる前の訴状の送達で手間取ることが少なくありません。
訴状が送達された後
無事に訴状が送達されたら、その後特段の事情が生じなければ、あらかじめ決められていた第1回の裁判の日を迎えることとなります。建物明渡請求訴訟では、被告(賃借人や占有者)が答弁書も出さずに欠席することも少なくありません。
その場合には、1回目の裁判期日で審理は終了となり、被告に明渡しや未払賃料の支払い等を命じる判決が後日下されることとなります。
被告が答弁書を出した、期日に出席した場合には、裁判の場で話し合いになることもあります。その結果、未払賃料の支払い方法や退去時期について訴訟上の和解が成立することもあります。
訴訟上の和解は、確定判決と同じ効力があります。そのため、合意した内容に反して未払賃料を払わなかったり、退去時期に退去しなかったりした場合には、後に解説する強制執行ができます。
強制執行
勝訴判決を得たり訴訟上の和解となったりした場合でも、賃借人や占有者が任意に賃貸物件を明け渡さないことも相当数あります。
このような場合や、賃借人が行方不明の場合には、強制執行手続によって、強制的に明渡しを行うこととなります。
建物明渡の執行の申立てに必要な書類
建物明渡しの執行を申立てる際に必要な書類は、以下のとおりです。
執行力のある債務名義
確定判決の判決書や訴訟上の和解を記載した調書だけを申立書に添付しても強制執行を開始してもらうことはできません。
強制執行の申立てをする前に、執行文付与の申立てを行い、判決書や和解調書の末尾に執行文という文言が記載された文書を添付してもらうことが必要となります。
そうして初めて、判決書や和解調書が執行力のある債務名義となります。
債務名義の送達証明書
強制執行の開始要件に、債務者に判決書や和解調書がすでに送達済みであることが民事執行法に設けられています。
判決書や和解調書が送達済みであることを示す書類が送達証明書です。
送達証明書は、申立てにより、建物明渡請求訴訟が係属していた裁判所から発行してもらうことができます。強制執行に先立ち、送達証明書の取得が必要です。
強制執行の手順
強制執行は以下の手順で行われます。
強制執行を行うのは誰か
強制執行を行うのは執行官という人で、各地方裁判所に所属する裁判所の職員です。
賃借人や占有者の建物の占有を解いて家主にその占有を取得させるのが執行官の業務です。
明渡しの催告
強制執行の申立てをしても、執行官がすぐに賃借人らを建物から排除することは通常ありません。
執行官は建物を訪れて、賃借人に対して1か月を経過する日を引渡し期限と定め、建物を明け渡すよう催告します。これを明渡しの催告といいます。
執行官が明渡しの催告をしたときには、①明渡しの催告をしたこと、②引渡し期限、③賃貸物件の占有の移転が禁止されていることを公示書に記載して、賃貸物件に貼り付けます。
引渡し期限と断行予定日
執行官は、明渡しの催告をする際には、引渡し期限とは別に強制執行の実施予定日(明渡しの断行予定日)を定めます。
明渡しの断行
執行官は、断行日に賃貸物件を訪れ、執行補助者とともに建物内にある動産を全て外に運び出させます。動産が全て運び出された後は建物の鍵を交換し、賃借人の建物の占有を解くことで明渡しが完了します。
なお、建物明渡しの強制執行の目的物はあくまで建物です。物置や車庫などは附属物として強制執行の対象となりますが、普通の家財道具は目的物ではなく明渡しの対象には含まれません。これらは原則として賃借人やその同居人らに引き渡すことが必要となります。
まとめ
建物明渡請求は、送達や強制執行など、一般の方が対応するにはとても面倒問題が含まれていることがお分かりいただけたと思います。
送達に際して必要な申立をしたり、強制執行にあたって必要な書類を手際よく集め速やかに執行の申立てを行うには、弁護士への依頼が欠かせません。
ネクスパート法律事務所には、建物明渡請求に精通した弁護士が揃っております。
賃借人の家賃滞納などでお困りの家主様は、是非、当事務所に一度ご相談ください。お待ちしております。