アパートの大家(以下、賃主)から立ち退き要求通知を受け取った際、多くの入居者(以下、借主)は、不安に駆られます。ただし、借主は借地借家法によって居住権が保護されています。これは貸主から、一方的にアパートの立ち退きを求められないことを意味します。
この記事では、アパートの立ち退きを求められた場合に借主が確認すべきことについて解説します。
貸主からのアパート立ち退き要求は正当事由が必須
一般的な居住用アパートの賃貸借契約では、貸主が契約の更新を拒絶したり、期間の途中で契約の解約を申し入れたりするためには、借地借家法に基づき正当事由が必須とされます。これは、賃貸借契約の継続を希望する借主の居住の安定を守らなければならないからです。正当事由がない限り、貸主は強制的に賃貸借契約を解約できません。正当事由の主な判断基準は以下のとおりです。
- 建物の使用目的および必要性(貸主側、借主側双方の必要性)
- 賃貸借に関する従前の経過(契約期間の長さ、借主の長期居住や転居困難度)
- 建物の利用状況
- 建物の老朽化や建て替えの必要性
- 財産上の給付(立ち退き料・代替物件の提供)の申し出
アパートの立ち退きを求められた際に立ち退き料が果たす役割は?
正当事由の評価で重要なポイントとなるのが立ち退き料です。例えば、建物の老朽化や貸主の自己使用の必要性だけで法的に十分な正当事由が認められない場合、貸主が借主に対して正当事由を補完するに値する立ち退き料を提示すれば、認められるケースがあります。
過去に、築50年超のアパートで老朽化・耐震性の問題と高額な立ち退き料の提示によって正当事由が認められた裁判例(令和3年12月14日東京地裁判決)や、老朽化の程度が不十分でも立ち退き料により正当事由が補完された裁判例(令和2年2月18日東京地裁判決)があります。
借主は、貸主の要求をそのまま受け入れるのではなく、貸主の事情が切実なものかどうかを正確に判断しなければいけません。正当事由が弱いのでは…と感じたら、それを補完するために必要な立ち退き料の要求をしましょう。
以下の表で、正当事由の評価基準と立ち退き料が果たす役割について示しますので参考にしてください。
| 借地借家法28条の評価要素 | 実務上の主な判断基準 | 立ち退き料による補完の役割 |
|---|---|---|
| 建物の老朽化や建て替えの必要性 | 築年数、耐震基準不適合、配管破損など、建物の客観的安全性 | 老朽化が「直ちに危険な状態ではない」場合、正当事由を補完するために高額補償が必要 |
| 貸主側の建物の使用目的・必要性 | 貸主の自己使用の切実性、建築計画の具体性 | 貸主の必要性が弱い場合に、金銭補償を増額することで正当性を補完 |
| 賃貸借に関する従前の経過 | 契約期間の長さ、借主の長期居住による転居困難度 | 居住歴が長いほど、借主の不利益が重視され、補償額が増す傾向がある |
| 財産上の給付(立ち退き料)の申出 | 移転費用、新居費用、権利喪失補填を適切に行う金銭的給付 | 他の要素が弱い場合に、正当事由の成立を決定づける最終要素となる |
アパートの立ち退き要求がされた場合にすべきことは?
貸主からアパートの立ち退きを要求された場合、借主がすべきポイントを解説します。
立ち退き要求の法的正当性の確認
立ち退き要求が法的に正当かどうかを確認しましょう。確認すべき主なポイントは以下のとおりです。
- 立ち退きまでの期間が法的に必要な6か月以上確保されているか
- 老朽化や建て替えの必要性が客観的な証拠(老朽化診断書など)に基づいているか
立ち退きで被る不利益を洗い出す
立ち退きによって被る不利益を洗い出しましょう。この作業は、補償として求める立ち退き料を明確にするために重要です。例えば引越し費用や新居の初期費用(敷金、礼金、仲介手数料)は最低限必須の補償項目ですし、新居の家賃が現在よりも高額になる場合は、その差額の補償(通常は数年分)を要求できます。
長期間居住していたなら、居住権の喪失や、生活基盤の変更に対する権利金的な補償額を設定します。
貸主と立ち退き料等について交渉する
貸主と立ち退き料や立ち退き時期について交渉しましょう。交渉では、金銭的な補償だけでなく、貸主が誠意を持ってサポートしてくれるかどうかも交渉材料にします。例えば、貸主側が移転先の物件探しを無料で支援したり、仲介手数料を負担したり、新居の家賃差額を補償してくれたりするか、などを確認します。
合意書を締結する
立ち退き料の金額、退去時期など、交渉で合意したすべての条件は、合意書で取り交わしましょう。これは、将来のトラブルを防ぐために重要です。合意書には、立ち退き料の支払いを確実に行うために、立ち退き料の支払いと鍵の引き渡しを同時に行う条項を盛り込むのをおすすめします。
アパートの立ち退きを求められたら弁護士に相談を!
アパートの立ち退きを求められたら、早い段階で不動産案件に精通している弁護士への相談・依頼をおすすめします。弁護士に依頼するメリットは以下のとおりです。
貸主との直接交渉が避けられる
弁護士に依頼すれば、貸主との直接交渉が避けられます。当事者同士の直接交渉は精神的な負担が大きく、感情的な対立に陥りがちです。弁護士が代理人として交渉にあたれば、精神的ストレスが避けられ、結果として早期に解決できる可能性が高まります。
適切な立ち退き料の判断ができる
弁護士に依頼すれば、適切な立ち退き料の判断ができます。弁護士は、貸主が主張する正当事由が法的に有効かどうか正確に評価できるため、不当な要求を避けられます。過去の判例に基づいた適切な立ち退き料を踏まえて交渉できるため、借主が自力で交渉した場合よりも、正当な立ち退き料を確保できる可能性があります。
立ち退き料以外の条件について交渉できる
弁護士に依頼すれば、立ち退き料以外の条件について交渉が可能です。例えば、代替物件の仲介手数料の負担、新居の家賃が高くなる場合の差額補償、原状回復義務の免除など、金銭補償以外の付随条件について交渉の幅を広げられます。
まとめ
住み慣れたアパートから立ち退きを求められたら、ショックが大きいことと思います。不安な気持ちを和らげるために、不動産案件を得意とする弁護士に速やかに相談しましょう。立ち退き交渉の成功には、法的な知識に基づいた戦略的方法が不可欠です。弁護士の支援を得て、あなたの権利と利益を確保しましょう。
ネクスパート法律事務所には、不動産案件を多数手掛けた実績のある弁護士が在籍しています。初回相談は30分無料ですので、アパートの立ち退きを求められて困っている方は、一度ご相談ください。


