立ち退き料の請求を禁止する特約とは?無効・有効になるケースを解説

賃貸人から退去を求められた際に、「契約上、立ち退き料の請求は禁止されている。」と言われたら、諦めるしかないでしょうか?

この記事では、立ち退き料の請求が禁止になるケースがあるかどうか、立ち退き料の支払いが禁止と言われた場合にすべきことについて解説します。

目次

立ち退き料の請求を禁止する旨の特約とは?

賃貸借契約書に、立ち退き料の請求を禁止する旨の特約が設けられることがあります。

賃貸借契約において立場の弱い賃借人は、借地借家法で強く保護されています。賃借人にとって不利な内容は、借地借家法の30条により無効となりますので、立ち退き料の請求が禁止となる特約は無効になる可能性が高いです。

しかし、こうした特約を設けている賃貸人もいます。
こうした特約を入れておけば、賃借人が立ち退き料は請求できないと考えて何もいわずに退去する可能性があり、結果として賃貸人が立ち退き料の支払わずに済むケースがあるからです。

立ち退き料の請求を一律に禁止する特約は無効となる可能性が高いものですが、こうした特約を設けていた事情が、明け渡し訴訟などで賃貸人の主張の一部として評価されることもあります。

ただし、それがただちに正当事由を補強する決定的な要素となるわけではありません。

無効と判断される可能性がある特約の例は?

賃借人に不利な内容の特約は、無効になる可能性が高いです。

例えば、以下のような内容の特約です。

  • 正当事由なしに賃貸人の都合で立ち退き要請ができる特約
  • 契約期間満了まで6か月を切っても賃貸人が更新拒絶できる特約
  • 契約期間満了後に明渡しに応じない場合には違約金が発生する旨の特約
  • 不確定な賃貸借終了の時期を定めて立ち退き料の請求を禁止する特約

もっとも、賃借人に不利な内容かどうかは、特約の文言だけでなく、それが設けられた経緯や当事者の実質的な目的を考慮して判断されるため、本章で紹介する特約が一律に無効とされるわけではありません。

正当事由なしに賃貸人の都合で立ち退き要請ができる特約

正当事由なしに賃貸人の都合で立ち退き要請ができる特約は、賃借人にとって不利な内容として無効になる可能性があります。

この場合の正当事由として考慮され得る事情には、賃貸人が自らその建物に住む必要が生じた場合や、建物の老朽化により立て替えの必要性がある場合などが挙げられます(ただし、これらの事情があれば直ちに正当事由が認められるわけではなく、双方の事情その他さまざまな要素を考慮して、正当事由の有無が判断されます)。

こうした事情がなく、賃借人に契約違反がないのに賃貸人がいつでも契約を終了できるとなれば、賃借人の立場は守られません。

したがって、賃貸人の一方的な都合で賃貸借契約を終了させることを可能にする特約は、無効になる可能性があります。

契約期間満了まで6か月を切っても賃貸人が更新拒絶できる特約

賃貸借契約の期間満了の6か月前を過ぎても賃貸人が更新を拒絶できる旨の特約は、賃借人に不利な内容として無効になる可能性があります。

借地借家法は、賃貸人が契約の更新を拒絶する旨の通知は、期間満了の1年前から6か月前までにしなければならないと規定しています。

そのため、この期間を短くする特約は、賃借人にとって不利ですので、無効になる可能性があります。

期間満了のみを理由に明渡しや違約金の支払い義務が発生する旨の特約

契約期間が満了しても賃借人が明渡しに応じない場合に、違約金が発生する旨の特約が設けられていることがあります。

しかし、賃貸人が法律の定めに従って適正に更新拒絶や解約の申し入れを行わない場合にもこれを適用する旨の特約は、賃借人に不利なものとして無効になる可能性があります。

例えば、公正証書で[1年の賃借期間満了後に家屋を明け渡さなければ違約金を支払う]と約していた事例では、賃貸人から更新拒絶の通知がされていなかったため、契約は当然に更新されたと判断されました。裁判所は、この特約が当事者の更新拒絶の有無を問わず期間満了のみを理由に契約を終了させようと目的で設けられたものであれば、無効であるといわなければならないと述べています(佐賀地裁昭和28年3月7日判決)。

このように、契約期間満了後の明け渡しや違約金について特約を設けていても、賃貸人が更新拒絶や解約に関する手続きを適正に行っていない場合、その特約の効力が否定されることがあります。

不確定な賃貸借終了の時期を定めて立ち退き料の請求を禁止する特約

不確定な賃貸借契約終了の時期を定めて立ち退き料の請求を禁止する特約は、賃借人に不利なものとして無効になる可能性があります。

建物を一時的に使用する目的で借りる場合は、借地借家法の規定が適用されません。一時的な使用と認められるのは、契約書等で一時使用であることが明確にされ、かつ、客観的に合理的な理由・事情が認められる場合です。例えば期間限定のイベントのために建物を借りるようなケースです。

過去には、賃貸人が病気療養をしている間だけ、パチンコ店を経営する賃借人に建物を貸したケースで、一時使用の賃貸借になるかどうかについて争われた事案があります。この事案では、賃貸人の病気がいつ治るかどうかは不確定であること、パチンコ店の経営は一般的に継続的に行うものであることから、一時使用のための賃貸借とは認められないと判断されています(東京高裁昭和29年12月25日判決)。

ほかにも、[(賃貸人の)子どもが結婚したときに契約が終了する]等の不確定な賃貸借契約終了の時期を定めるケースもあるようです。

このように、終了時期が不確定な契約にもかかわらず、一時的な賃貸借と位置づけて立ち退き料の請求を禁止する特約を設けても、無効と判断される可能性があるでしょう。

立ち退き料の請求を禁止する旨の特約が例外的に有効とされうる例

立ち退き料の請求を禁止する旨の特約が例外的に有効とされる例は、以下の2つです。

長期間の賃料滞納等を理由に無催告解除をできるとする特約

長期間の賃料滞納等を理由に無催告解除ができるとする特約は、有効になる可能性が高いです。

賃料の滞納が3か月に達した場合に、催告なしに契約解除ができる旨の特約を有効と判断した判例があります(昭和37年4月5日最高裁判決)。

もっとも、催告なしで解除が可能になるかどうかは、滞納回数、滞納額、その他もろもろの事情を考慮して総合的に判断されます(最判昭和50年11月6日)。

なお、1か月の賃料滞納でも催告なしに契約解除ができる旨の特約は有効かどうかについて裁判所の見解は分かれますが、実務上はこのような特約があっても催告なしの契約解除は難しいです。

定期借家契約における立ち退き料請求禁止特約

定期借家契約における立退料請求禁止特約は、有効になる可能性が高いです。

借地借家法の38条で、30条の規定にかかわらず契約の更新がないこととする定めを認めているからです。

立ち退き料は、更新を拒絶するための正当事由を補完するために求められるものです。定期借家契約のように更新がない場合は、正当事由が不要となりますので、立ち退き料は必要なく、請求禁止の特約は有効だと考えられます。

立ち退き料の支払いは禁止されていると言われた場合にすべきことは?

立ち退き料の支払いは禁止されていると賃貸人に言われた場合、すべきことは以下の3点です。

賃貸借契約書を確認する

建物を借りた際に取り交わした賃貸借契約書を確認しましょう。

立ち退き料の請求を禁止する特約があるかどうか、チェックをします。

自身が賃貸借契約に違反していないか確認する

ご自身が賃貸借契約に違反していないかどうか確認しましょう。

賃貸借契約の違反と判断されるのは、主に以下の事項です。

  • 賃料を滞納している
  • ペット不可の物件でペットを飼っている
  • 賃貸人の許可なく部屋を改築している
  • 住居として契約したのに事務所や店舗として利用している
  • 近隣住民とトラブルがある

弁護士に相談する

ご自身に非がないにもかかわらず、立ち退き料の請求が禁止といわれたら、不動産案件を多数手掛けている弁護士に相談をしましょう。

賃貸人から立ち退きを求められ立ち退き料は支払えないと言われた場合、要求を黙って受け入れる前に弁護士からアドバイスを受けたほうがよいです。

不動産案件が得意な弁護士かどうか、力を入れている弁護士かどうかは、ホームページで確認ができます。最近は多くの法律事務所でホームページを開設し、得意分野や注力している分野と実績を載せていますので、参考にしてみてください。

まとめ

立ち退きを求められたのに、立ち退き料が支払われないとなると、納得しがたいと感じる方も多いでしょう。

賃貸人から「賃貸借契約書の特約に盛り込まれているから…。」といわれても、諦めずに弁護士にご相談ください。

ネクスパート法律事務所には、不動産案件を得意とする弁護士が在籍しています。初回相談は30分無料ですので、お気軽にお問合せください。

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