複数の土地をまとめて一体的に建て替える都市再開発は、安心・安全で魅力的なまちづくりに有効な方法です。
しかし、再開発のために、長年住んでいたり商売をしていたりした場所から立ち退いてほしいといわれたら、戸惑う人も多いでしょう。
この記事では、そのような事態に直面している人が知っておきたい借家人補償の内容について解説します。

都市再開発における借家人補償とは?
借家人補償とは、再開発によって地区外に転出する借家人に対して、新たに借りる建物の家賃や必要な諸費用を補償することです。
土地収用法では、借家人は裁決申請を請求できないのに対し、都市再開発法では借家人が手厚く保護されています。
具体的に、借家人には以下の権利が認められています。
- 事業計画や権利変換計画に意見書の提出ができる
- 希望すれば従前の家主が取得する建物の一部で借家を継続できる
- 家主が地区外に転出する場合、保留床に借家権を取得できる
- 特に必要があれば保留床を公募によらず譲り受けられる
ただし、再開発によって建物が新しくなることで賃料や管理費等が若干高くなることもよくあります。借家条件その他の事由により、再開発により新設された建物への入居を希望しない場合もあるでしょう。
借家人がこれらの権利の取得を希望せず、地区外に転出する場合は、通常受ける損失が補償されます。
都市再開発法による借家人に対する2つの補償内容は?
再開発組合が支払う補償金には2種類あり、その内容は都市開発法91条と97条で定められています。
借家人はこの2つの補償を受けられるのか、以下で解説します。
91条補償
借家人が、91条補償を受けられる可能性は低いでしょう。
都市開発法91条で定められている補償(91条補償)は、従前の権利に対する対価で、権利補償もしくは対価補償とも呼ばれます。
例えば、土地の所有者が地区外に転出する場合、従前に所有していた土地所有権の対価について補償金を受けられます。対価は、周辺の似たような条件の土地や建物、それらに附随する権利がどのくらいの値段で取引されているか、その取引価格等を考慮して算定されます。
上記を踏まえると、形式的には借家人も91条補償の対象になり得ると考えられます。
しかし、一般的に借家権は賃貸人の承諾なく譲渡できないものであり、取引慣行自体がないと評価されているため、客観的な取引価格を確認することが困難です。借家権取引がほとんど見られない地域では、借家権価格がゼロと評価される可能性があります。
判例においても、借家権の取引価格を認識しえない場合は、91条補償の対象とならないという考えを示しているものが多いです。
したがって、実際は取引慣行のある借家権に関してのみ、91条補償の対象となる可能性があると考えたほうがいいかもしれません。
97条補償
借家人も、地権者と同様に97条補償を受けられます。
都市開発法97条で定められている補償(97条補償)は、都市再開発によって借家人が通常受ける損失を補償しなければならないとしています。
もっとも、地権者のみに認められる補償は除かれるので、借地人が通常受ける損失としては受けられる補償は、主に以下の内容となるでしょう。
- 引っ越しや店舗の移転にかかる費用
- 仮住まいや仮営業にかかる費用
- 店舗移転にともなう休業による損失
再開発による立ち退きや補償内容にお悩みの方は弁護士に相談を
再開発で立ち退きを迫られているけれど、補償内容に納得がいかないなどお悩みの場合は、弁護士への相談をおすすめします。
提案を受け入れてしまったら、あとから覆すのは容易ではありません。
少しでもモヤモヤした気持ちがあるのなら、再開発の知識が豊富な弁護士に相談をしたほうがよいでしょう。
まとめ
安心・安全で魅力的なまちづくりをするための再開発は、防犯や防災の面でも進めるのが大切だと考えられています。ただし、立ち退きを迫られる人にとっては精神的にも金銭的にも苦痛を強いられるケースが多いです。
借家人補償の内容をよく調べて、自分がどれぐらいの補償を得られるか検討をつけておくとよいでしょう。
ネクスパート法律事務所では、不動産案件を多数手掛けている弁護士が在籍しています。
再開発で立ち退きを迫られ困っている方や補償の内容に納得ができない方は、ぜひ一度ご相談ください。