原状回復特約の要件とは?法的有効性と判断基準を解説

賃貸物件の退去時に高額な原状回復費用を請求され、驚きや不満を感じる賃借人は少なくありません。

この問題の背景には、賃貸借契約書に盛り込まれた原状回復特約があります。

この特約が法的に有効でないケースもあり、その場合は不当な請求を回避できる可能性があります。

この記事では、以下の点について解説します。

  • 原状回復特約の要件は?
  • 無効と判断される可能性が高い原状回復特約の事例は?
  • 不当な特約に対する対処方法
目次

原状回復特約の要件は?

原状回復特約が有効と認められるためには、以下3つの要件が必要です。

1. 客観的・合理的理由の存在

特約に不当な目的がなく、必要性が客観的に認められることです。

例えば、近隣の相場と比べて家賃を安くする代わりに、退去時に賃借人に特別の負担を課す場合や、ペット飼育を許可する代わりに退去時の清掃費用を賃借人負担とすることなどが考えられますが、限定的なものと解すべきとされています。

2. 賃借人の認識

賃借人が、通常の原状回復義務を超える範囲の修繕義務を負うことを明確に認識していることです。

賃借人に特別の負担を課す特約は、賃借人にとって予期しない負担となり得るからです。

そのため、少なくとも、賃借人が修繕義務を負担する範囲が賃貸借契約書の条項に具体的に明記されているか、賃貸人が口頭により説明して、賃借人がその内容を明確に理解している必要があります。

なお、不動産会社が賃貸借契約の仲介を行う場合には、契約締結時の重要事項説明で、宅地建物取引士が口頭だけでなく書面で具体的に説明することが求められています。

3. 賃借人の意思表示

賃借人が、通常の原状回復義務を超える範囲の修繕義務を負うにあたって、費用負担に同意していることです。

賃借人が特約による義務負担の意思表示をしているかどうかは、その金額の妥当性や、どの程度の金額になるのか賃貸借契約書その他書面で目安を示しているかなどを考慮して判断されます。

賃貸借契約書に特約として記載されている場合、多くの人は従わなければならないと考えがちです。

しかし、特約はすべてが絶対的に有効ではありません。これらの要件が一つでも満たされない場合、たとえ賃貸借契約書にサインをしたとしても、その特約は法的に無効と判断される可能性があります。

無効と判断される可能性が高い原状回復特約の事例は?

最高裁判例や消費者契約法、国土交通省のガイドラインに基づいて、無効と判断される可能性が高い原状回復特約の事例について解説します。

通常損耗・経年劣化を賃借人負担とする特約

通常損耗・経年劣化を賃借人負担とする特約は、無効と判断される可能性が高いです。

通常損耗とは、日常生活で避けられない損耗で、経年変化は、時間の経過とともに自然に発生する劣化を指します。

例えば、以下のような損耗です。

  • 家具の設置による床のへこみ
  • 冷蔵庫やテレビ裏の電気焼け
  • ポスターなどを貼った画鋲の穴(下地ボードまで達しない程度のもの)
  • 日照による壁紙の変色
  • 床材や畳の日焼け
  • 設備機器の寿命による故障

これらの通常損耗は、賃料に含まれるべきものとされており、これを賃借人負担とする特約は、原則として無効です。経年劣化は、賃貸物件の価値の減少であり、賃借人に責任はありません

通常損耗・経年変化もすべて賃借人負担とする包括的な特約は、賃借人がその負担を明確に認識しているとはいえず、有効と認められる可能性は低いです。

ハウスクリーニング費用を賃借人負担とする特約

ハウスクリーニング費用を賃借人負担とする特約は、無効と判断される可能性が高いです。

ハウスクリーニング費用は、次の入居者を確保するための費用であり、通常は賃貸人が負担すべきものだからです。

判例でも、ハウスクリーニング特約に清掃範囲などの詳細な定めがなく、賃借人の合意があったとは認められないとして、特約が無効とされた事例があります(平成31年2月4日前橋簡裁判決)。

ただし、タバコのヤニ汚れやペットの臭いなど、通常清掃では落としきれない特別な汚れや臭いがある場合は、その費用を賃借人が負担する特約は有効と判断される可能性があります。

消費者契約法による無効事例に該当する特約

消費者契約法による無効事例に該当する特約は、無効と判断される可能性が高いです。

例えば、以下のような特約です。

  • 金額の記載がない特約
  • 実際の損害を大幅に超える高額な違約金を求める特約
  • 入居期間に関わらず一律で高額な原状回復費用を請求する特約

不明瞭な特約は、裁判になった場合に賃借人がその金額に合意したとは認められず、無効と判断される傾向にあります。

トラブルを回避するための特約の記載例|具体的な例文を紹介

賃借人に特別の負担を課す特約は、通常損耗を超える特別な負担であることを明確にし、金額や範囲を具体的に明記しなければいけません。

ここでは、判例や国土交通省のガイドラインに基づき、トラブルを回避するための記載例を紹介します。

特約の内容記載例
喫煙に関する特約賃借人は、室内での喫煙を禁ずる。万が一喫煙により壁紙、天井、その他設備にヤニ汚れや臭気が付着し、通常清掃で除去できない場合は、当該部分の修繕・特別清掃費用を負担する。費用は、原状回復ガイドラインに定める減価償却率を適用の上、実費負担とする。
ハウスクリーニングに関する特約退去時、賃借人は入居中に行った通常清掃とは別に、賃貸人の指定する専門業者による室内全体(水回りを含む)のハウスクリーニング費用として、一律〇〇円を負担する。 ※金額を具体的に記載し、範囲の明確さが重要なポイントです。
ペット飼育に関する特約賃借人は、本物件におけるペットの飼育を承諾する。ただし、飼育による壁や床のひっかき傷、および臭気の除去にかかる特別清掃費用として、一律〇〇円を負担する。 ※ペット可物件でも、通常の使用を超える損耗は賃借人の責任です。

退去時のトラブルを避けるためのチェックポイントは?

賃貸借契約において、原状回復特約に関するトラブルは数多くあります。

賃貸人と賃借人の間の認識のずれを防ぎ円満に契約終了に繋げるには、入居時に以下の点についてチェックしましょう。

重要事項説明書と契約書を確認する

契約書の内容を隅々まで確認しましょう。

特に特約事項や原状回復の範囲に不明瞭な点がないかチェックします。

不明な点を曖昧にしない

少しでも疑問に思うことがあれば、納得いくまで賃貸人あるいは宅地建物取引主任者に説明を求めましょう。

もし不当と思われる特約があれば、契約前にその特約を外す交渉をするなど、安易にサインをしてはいけません。

まとめ

賃貸生活を安心して送るために契約書を鵜呑みにせず、自らの権利を理解する姿勢が重要です。

万が一、不当な請求に直面した場合は、感情的にならず請求内容の詳細を確認し、国土交通省のガイドラインや相場情報を根拠に交渉を進めましょう。

それでも解決しない場合は、弁護士への相談をおすすめします。不動産案件を多数手掛けた経験のある弁護士であれば、法的な知識と交渉スキルを活かし、不当な請求からあなたを守るためのサポートが可能です。

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