遺言が無効の可能性

【事例】
父親が死亡し、相続人として子供2人(太郎さんと花子さん)がいます。
父親の遺産は、自宅の土地と建物、預貯金があり、父親は「財産のすべてを太郎に相続させる」との遺言書を残していました。
このような場合、花子さんはどのような請求をすることが出来るでしょうか。

【回答】
1.花子さんはとしては、通常、太郎さんに対して遺留分侵害額請求権を行使することになりますが、以下の場合には、遺言の無効を主張し、遺言無効確認訴訟を提起することも考えられます。

なお、遺言が無効であることが確認された場合には、遺言書はなかったものと扱われるため、相続人全員で新たに遺産分割を行うことになります。

まず、遺言作成の際に、遺言者の意思能力がなかったといえる場合には遺言は無効となります。

また、民法は、遺言が遺言者の真意に基づいたものであることを担保するため、遺言の作成様式について厳格な要件を定めています。そして、その様式に違反した遺言については無効となります。そのため、自筆証書遺言では、遺言者自身が書いたものであるかが問題となります。

その他、遺言が詐欺や強迫により作成された場合には、遺言を取り消すことができ、取り消すことにより遺言の無効を主張する方法もあります。

2.遺言者の意思能力が問題になるケースとはどのような場合でしょうか。

遺言者の意思能力については、争われる場合も多く、遺言作成当時、遺言者に認知症などの症状があった場合に問題となります。具体的には、遺言書の作成経過及び作成当時の遺言者の言動などから、遺言者が遺言の内容を理解し、遺言を作成することから生じる結果を認識して判断する能力があったか否かが問題となります。内容及び結果を理解して判断できる程度であったかを、遺言者の生前の医療記録等から見ていくことになるでしょう。

3.詐欺や強迫による取り消しはどのようなケースでしょうか。

民法では、他人から詐欺や強迫を受けてなされた意思表示は、瑕疵があり、取り消すことができるとされています。遺言をすることも意思表示のひとつですので、遺言者が詐欺や強迫を受けて、遺言を作成したといえれば、取り消すことができます。

4.遺言無効確認の手続きの流れ

(1)家事調停
遺言無効確認事件は、家庭に関する事件であり家事調停の対象となります。調停では、話し合いによる解決を目指しますので、関係者での見解の対立が激しい場合には、調停をしなくとも、訴訟手続きを行うことは可能です。

(2)訴訟提起
訴訟を提起する場合は、家庭裁判所ではなく、地方裁判所となります。この場合、相続人全員ではなく、遺言執行者が遺言書の中で定められている場合は遺言執行者を、定められていない場合は、遺言によって利益を受ける者を被告とすることになります。

なお、遺言無効確認請求訴訟は、遺言者が死亡した後でなくては提起することができず、遺言者の生前に訴えを提起しても不適法として却下されることになります。