【事例1】遺産に株式が含まれている場合
父親が死亡し、相続人として子供2人(太郎さんと次郎さん)がいます。
父親の遺産は、自宅の土地・建物、預貯金、株式があり、父親は「財産のすべてを太郎に相続させる」との遺言書を残していました。
このような場合、次郎さんはどのような請求をすることが出来るでしょうか。
【回答】
1.投資信託が相続された場合の手続き
株式は相続開始後、相続により、共同相続人の共有状態となります。
2.次郎さんの遺留分侵害額請求権の行使の流れ
(1)遺留分侵害額請求権の行使
次郎さんは、遺留分として1/2×1/2=1/4が認められています(詳しくは、2-3遺留分の計算方法をご確認ください)。
それにもかかわらず、太郎さんが父親の遺産をすべて相続するため、次郎さんは、太郎さんに対し、父親の財産の各4分の1を限度として、遺留分侵害額請求権を行使することができます(具体的な請求方法については、2-4の請求の方法をご確認ください。)。
(2)遺留分侵害額に相当する金銭の支払い請求権の発生
ア.改正民法施行日(令和元年7月1日)より前までは、遺留分に関する権利の行使により、遺産のうち遺留分侵害分に相当する持分について、当然に権利を取得するとされていました。そのため、現物返還が原則となっており、次郎さんが遺留分に関する権利を行使すると、原則として、土地、建物の共有持分として各4分の1、預貯金の4分の1、株式の4分の1を取得することになります。
遺留分権利者に、遺留分減殺対象財産の選択権を否定する立場が通説となっており、次郎さんが預金のみ又は不動産のみの取得を希望していたとしても、それはできないと考えられています。
ただし、協議をして、太郎さんと次郎さんが合意をすれば、どのような分け方でも遺産を分配することができます。
イ.太郎さんが価額弁償の意思表示をしていない場合、遺留分権利者である次郎さんから価額弁償請求をすることはできません。そのため、次郎さんが遺留分減殺請求権行使をした場合で、太郎さんが価額弁償の意思表示をしない場合には、株式は太郎さん4分の3、次郎さん4分の1の共有状態になります。
もっとも、投資信託を共有状態のままにしておくと、権利行使をする場合や配当を受給するときに、手続きが煩雑かつ面倒になります。そのため、このまま共有状態のままということは通常はあまり考えられません。
(3)価格弁償
ア.現物返還が原則ですが、遺贈等を受けた人は価額弁償の意思表示をすることができます。また、遺贈等を受けた側で、価額弁償をするか、現物分割をするかを個別財産ごとに選択することができます(最高裁平成12年7月11日判決)。
したがって、太郎さんとしては、株式のみを価額弁償とすることも可能と考えられます。
イ.では、株式を価額賠償とする場合、どのような点に注意が必要でしょうか。
減殺できる遺留分の金額に影響がある株式の評価額に注意が必要です。
遺留分算定の基礎財産の価額算定の基準時は相続開始時となります。遺言の内容が遺留分を侵害しているかについては、相続開始時点を基準に判断されます。
そのため、評価額は取得時の価額ではなく、相続時(父親が亡くなった時)の評価額になります。
上場株式の場合には、父親宛に送付されていた証券会社や信託銀行等を見て、その会社へ取引残高証明書又は評価証明書を発行してもらい、その書面に記載された評価額を確認します。他方、非上場株式の場合には、発行会社に問い合わせ、保有数を確認することになります。非上場会社の場合には明確な評価額はなく、複雑な計算が必要になりますので、弁護士や税理士等の専門家へ相談した方が良いでしょう。
ウ.具体的な分割方法については、評価額の4分の1を金銭で支払ってもらうということになります。評価額や評価方法については、当事者間で合意することができれば、合意した額を遺留分の算定の基礎として使用することもできます。
【事例2】遺産に投資信託が含まれている場合
父親が死亡し、相続人として子供2人(太郎さんと次郎さん)がいます。
父親の遺産は、自宅の土地・建物、預貯金、投資信託があり、父親は「財産のすべてを太郎に相続させる」との遺言書を残していました。
このような場合、次郎さんはどのような請求をすることが出来るでしょうか。
【回答】
1.投資信託とは
投資信託とは、多数の投資家から投資信託の販売会社を通じて集めた資金を,投資専門家が株式等の有価証券等に投資し,その投資運用によって得た利益を投資家に分配するという金融商品のことをいいます。
投資信託の投資家には,投資信託の運用によって得た利益の分配を受ける権利(分配金請求権)や投資信託を解約または終了したときに返還される資金である償還金を請求する権利(償還金請求権)があります。
上記分配金請求権や償還金請求権は財産的価値がありますので、死亡した人が投資信託を行っていた場合、分配金請求権や償還請求権が相続財産に含まれることになります。
2.投資信託が相続された場合の手続き
投資信託に関する分配金、償還金の請求権については、相続により、共同相続人の共有状態になるとされています(最高裁平成26年2月25日判決)。
また、相続開始後遺産分割前に発生した収益についても共同相続人の共有状態になるとされています(最高裁平成26年12月12日判決)。
3.次郎さんの遺留分減殺請求権の行使の流れ
(1)遺留分減殺請求権の行使
次郎さんは、遺留分として1/2×1/2=1/4が認められています(詳しくは、2-3遺留分の計算方法をご確認ください)。
それにもかかわらず、太郎さんが父親の遺産をすべて相続するため、次郎さんは、太郎さんに対し、父親の財産の各4分の1を限度として、遺留分減殺請求権を行使することができます(具体的な請求方法については、2-4の請求の方法をご確認ください。)。
(2)現物返還の原則
ア.現物返還が原則であるため、次郎さんが遺留分減殺請求をすると、原則として、土地、建物の共有持分として各4分の1、預貯金の4分の1、投資信託の4分の1を取得することになります。遺留分権利者に、遺留分減殺対象財産の選択権を否定する立場が通説となっており、次郎さんが預金のみ又は不動産のみの取得を希望していたとしても、それはできないと考えられています。
ただし、協議をして、太郎さんと次郎さんが合意をすれば、どのような分け方でも遺産を分配することができます。
イ.太郎さんが価額弁償の意思表示をしていない場合、遺留分権利者である次郎さんから価額弁償請求をすることはできません。
そのため、次郎さんが遺留分減殺請求権行使をした場合で、太郎さんが価額弁償の意思表示をしない場合には、投資信託は太郎さん4分の3、次郎さん4分の1の共有状態になります。
もっとも、投資信託を共有状態のままにしておくと、権利行使のたびに共同相続人全員の合意が必要になるなど、手続きが煩雑かつ面倒になります。そのため、このまま共有状態のままということは通常はあまり考えられません。
(3)価格弁償
ア.現物返還が原則ですが、遺贈等を受けた人は価額弁償の意思表示をすることができます。また、遺贈等を受けた側で、価額弁償をするか、現物分割をするかを個別財産ごとに選択することができます(最高裁平成12年7月11日判決)。
したがって、太郎さんとしては、投資信託のみを価額弁償とすることも可能と考えられます。
イ.では、投資信託を価額賠償とする場合、どのような点に注意が必要でしょうか。
減殺できる遺留分の金額に影響がある株式の評価額に注意が必要です。
遺留分算定の基礎財産の価額算定の基準時は相続開始時となります。遺言の内容が遺留分を侵害しているかについては、相続開始時点を基準に判断されます。
そのため、評価額は取得時の価額ではなく、相続時(父親が亡くなった時)の評価額になります。父親が投資信託の販売を受けた金融機関に、相続が発生したと連絡し、相続時の評価額を確認する必要があります。
ウ.具体的な分割方法については、評価額の4分の1を金銭で支払うということになります。評価額や評価方法については、当事者間で合意することができれば、合意した額を遺留分の算定の基礎として使用することもできます。