更新日:2026年9月7日 (月)
公開日:2026年9月7日 (月)
財産評価基本通達とは?相続税申告での評価方法や総則6項を解説
サマリー
相続税や贈与税の申告を控えている方のなかには、保有する不動産や株式などをどのように評価すればよいか分からず、戸惑っている方も多いのではないでしょうか。
財産評価基本通達は、国税庁が定めた財産の具体的な評価基準です。公平な課税のために画一的な評価ルールが示されている一方で、財産の個別性に応じた補正や、例外規定である「総則6項」への理解も欠かせません。
この記事では、財産評価基本通達の基本的な仕組みや主要な財産の評価方法、総則6項が注目される理由などを分かりやすく解説します。
財産評価基本通達とは?目的と相続税・贈与税申告における位置づけ
相続税や贈与税を計算する際、取得した財産の価値を金銭に見積もる作業が必要となります。相続税法第22条では、取得した財産の価額は「時価」によるものと規定されています。
しかし、預貯金のように金額が一目瞭然の財産ばかりではなく、土地や建物といった不動産、取引相場のない非上場株式などは、評価する人や方法によって金額に大きな差が生じがちです。
全国一律の公平な課税を実現するための評価基準
納税者ごとに評価基準が異なると、同じような財産を相続したにもかかわらず税額に不公平が生じるおそれがあります。また、税務署ごとに判断が分かれれば課税実務に混乱が生じかねません。
財産評価基本通達は、全国一律で公平かつ客観的な評価基準を担保するために国税庁が定めた統一的なルールです。
この通達によって、土地の路線価方式や建物の固定資産税評価額に基づく評価、各種財産の減額補正の計算式などが細かく規定されており、申告実務のよりどころとなっています。
法令(法律・政令・省令)と「通達」の違い
法的な観点からみると、法律(国会が制定)や政令・省令(行政機関が制定する法令)と、通達とでは位置づけが異なります。
通達は、上級行政機関が下級行政機関に対して職務遂行や法解釈の指針を示す行政内部の命令にすぎず、裁判所や国民を法的に直接拘束する効力(法規範性)を持つものではありません。
もっとも、税務署は原則として財産評価基本通達に従って課税処分を行うため、通達に沿って評価・申告を行うことが実務上の標準的な手続きとして機能しています。
財産評価基本通達による主な財産の評価方法
財産評価基本通達では、財産の種類ごとに具体的な評価方法が細かく定められています。相続税や贈与税の申告においては、対象となる財産をそれぞれの区分に応じた計算式や基準に当てはめて評価額を算出します。
不動産(土地・家屋)の評価方法
土地の評価には、市街地などで用いられる「路線価方式」と、それ以外の地域で用いられる「倍率方式」の2つがあります。
路線価方式では、道路ごとに設定された路線価に土地の面積を掛け、形状に応じた補正率などを加味して計算します。倍率方式では、固定資産税評価額に国税局長が定めた一定の倍率を掛けて算出します。
家屋については、原則として固定資産税評価額に1.0倍を乗じて評価します。なお、他人に賃貸している家屋や貸宅地などについては、借家権割合や借地権割合などを控除して評価額を減額する調整が行われます。
取引相場のない株式(非上場株式)の評価方法
上場していない非上場株式は、会社規模や株主の区分に応じて評価方式が異なります。同族株主などが取得する場合は原則的評価方式が適用され、それ以外の少数株主が取得する場合は特例的な「配当還元方式」が用いられます。
原則的評価方式には、事業内容が類似する上場企業の株価を基に評価する「類似業種比準方式」と、会社の純資産額を基に評価する「純資産価額方式」、およびこれらを併用する方式があります。大会社、中会社、小会社という規模の区分によって適用される割合が決定されます。
非上場株式の評価は計算要素が多く複雑になりやすいため、評価区分の判定を含めた慎重な確認が求められます。
預貯金・上場株式・その他の動産の評価方法
預貯金は、原則として相続開始日における預金残高に、同日時点で解約した場合に支払われる既経過利息(税引後)を加算して評価します。
上場株式は、課税時期(死亡日など)の最終価格のほか、課税時期の属する月、その前月、前々月の3か月間における毎日の最終価格の平均額のうち、いずれか低い金額を選択して評価できます。
自動車や貴金属などの一般動産は、売買実例価額や精通者意見価格などを参考に評価します。家庭用財産などで個々の価値が少額なものについては、家財一式としてまとめて評価されるのが一般的です。
| 財産の種類 | 主な評価方法 | 評価の基準となる数値など |
|---|---|---|
| 土地(市街地等) | 路線価方式 | 路線価 × 地積 × 各種補正率 |
| 土地(郊外等) | 倍率方式 | 固定資産税評価額 × 地域別の評価倍率 |
| 家屋 | 固定資産税評価額方式 | 固定資産税評価額 × 1.0(自用の場合) |
| 非上場株式(同族株主) | 類似業種比準方式 / 純資産価額方式 | 類似上場企業の指標や会社の純資産額 |
| 非上場株式(少数株主) | 配当還元方式 | 過去2年間の平均配当金額 |
| 上場株式 | 市場価格方式 | 課税時期の終値または直近3か月の平均終値の最低額 |
| 預貯金 | 残高+既経過利息 | 相続開始時の預入残高および経過利息額 |
注目される「総則6項」とは?通達によらない評価が行われるケース
財産評価基本通達には、各財産の評価方法とともに「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」という規定が置かれています。これが実務上「総則6項」と呼ばれる例外規定です。
総則6項は、通達のルールを形式的に適用するとかえって適正な時価から大きく乖離し、納税者間の実質的な公平を損なうような事態を防ぐために設けられています。
総則6項の適用が問題となる主なケース
総則6項が適用される場面としては、主に過度な節税を目的とした取引が行われたケースが挙げられます。通達に定められた評価額と実際の取引価額(時価)に大きな差が生じる仕組みを意図的に利用した場合に、問題視される傾向があります。
- 相続開始の直前に多額の借入れを行って不動産を購入し、相続後すぐに売却したケース
- 路線価や固定資産税評価額と実際の市場売買価格との乖離が大きいタワーマンションなどを利用した節税
- 短期間での非上場株式の移動や組織再編を通じた極端な株式評価額の引き下げ
通達に形式上沿った申告であっても、実質的な租税負担の公平を害すると判断された場合には、例外的に時価での再評価(否認)が行われる可能性があります。
最高裁判例に見る判断の基準
2022年4月の最高裁判決では、相続直前に購入された不動産の評価を巡り、総則6項の適用による追徴課税処分が適法と判断されました。この裁判では、通達通りの評価額と実際の購入・売却額との間に著しい乖離が存在していた点に加え、節税を主目的として取引が行われていた背景などが総合的に考慮されました。
裁判所は、他の納税者との間で看過できない不均衡が生じ、実質的な租税負担の公平に反するという「特別な事情」がある場合には、通達によらない評価が許容されるとの判断を示しています。
このように、形式的に通達の基準を満たしている場合であっても、取引の時期や目的、経済的合理性の有無によっては総則6項の対象となる場合があるため、注意深い検討が求められます。
財産評価を行う際の注意点と実務上のポイント
財産評価基本通達に基づいた評価を行う際には、単に路線価や固定資産税評価額を機械的に当てはめるだけでは不十分な場合があります。財産ごとの個別要因を適切に反映させないと、本来よりも高く評価されて過大納付になったり、逆に低く見積もりすぎて申告漏れを指摘されたりする恐れがあります。
個別要因による減額補正の検討
特に土地の評価においては、形状や周辺環境などの個別事情に応じた減額補正が規定されています。たとえば、正方形や長方形ではない不整形地、道路に接していない無道路地、道路との間に高低差がある土地、あるいは都市計画道路予定地などは、利用価値の制約を考慮した補正が可能です。
また、他人に土地を貸している借地権や、貸家が建っている貸家建付地など、権利関係の制約がある場合も評価額が減額されます。こうした減額要因を見落とさずに適用することが、適正な申告につながります。
土地の形状や権利関係に応じた減額補正を正しく適用することで、評価額を適正な水準に抑えられる可能性があります。
現地調査と客観的資料の収集
財産評価の実務では、登記簿謄本や公図などの書面確認にとどまらず、現地調査を行うことが重要視されます。公図と実際の境界が異なっていたり、私道やセットバックが必要な部分が存在していたりすることは、現地を確認して初めて判明するケースも少なくありません。
さらに、過去数年分の預貯金通帳の履歴や保険契約の内容、贈与契約書の有無など、財産の動きを裏付ける資料を幅広く収集しておくことが、正確な財産目録の作成と申告漏れの防止に寄与します。
評価が複雑な財産における専門家への相談
取引相場のない非上場株式や、権利関係が複雑に入り組んだ不動産、多数の利用区分がある広大な土地などは、評価方法の選択や計算が非常に複雑です。判断を誤ると、税務調査で否認されるリスクや遺産分割協議でのトラブルが生じる懸念があります。
評価の判断が分かれる財産や手続きに不安がある場合は、相続実務を取り扱う税理士や弁護士などの専門家に相談しながら進めることが推奨されます。
まとめ
財産評価基本通達は、相続税や贈与税の適正な申告を行うための重要な指針です。土地や非上場株式などの評価には複雑な規定や個別要因の検討が必要であり、場合によっては総則6項の適用リスクにも配慮しなければなりません。
正確な財産評価に基づいた円滑な申告や遺産分割を進めるためには、早い段階で専門家に相談することが大切です。
財産の評価方法や相続手続きに関してご不明な点や不安がある場合は、弁護士法人ネクスパート法律事務所へお気軽にご相談ください。
コラム監修者
Shunsuke Teragaki
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。