更新日:2026年9月3日 (木)
公開日:2026年9月3日 (木)
借金を原因に離婚できる?法的な離婚事由や返済義務を解説
サマリー
配偶者のギャンブルや浪費による借金が発覚し、「借金を理由に離婚できるのか」「自分にも返済義務があるのではないか」と不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
夫婦間の合意があれば借金を理由とする離婚は可能ですが、相手が拒絶する場合は法律上の離婚原因に該当するかどうかが焦点となります。また、借金の理由や名義によって、ご自身への返済義務や財産分与の清算方法も異なります。
この記事では、借金を原因とする離婚の可否や手続きの流れ、返済義務と財産分与の注意点について解説します。
借金は法律上の離婚原因(法定離婚事由)になるのか
配偶者に借金がある場合、離婚が認められるかどうかは夫婦間の合意の有無や手続きの方法によって異なります。
合意があれば理由を問わず離婚できる
夫婦間の話し合いによって進める「協議離婚」や、家庭裁判所で行う「調停離婚」の場合、双方が離婚に合意していればどのような理由であっても離婚が成立します。
借金の使途が生活費補填であってもギャンブルなどの浪費であっても、お互いが納得して離婚届を提出したり調停条項に合意したりすれば、法律上の離婚原因があるかどうかは問題になりません。
裁判離婚では「単なる借金」だけでは認められにくい
相手が離婚に応じず裁判(訴訟)によって離婚を目指す場合は、民法第770条第1項に規定されている「法定離婚事由」のいずれかに該当している必要があります。
民法の条文には「借金」という項目が直接定められているわけではないため、配偶者に借金があるという事実単体だけでは、裁判で直ちに離婚が認められる可能性は高くありません。
裁判で借金を理由に離婚を認めてもらうには、その借金によって婚姻関係が修復不可能なほど破綻していると法的に判断される必要があります。
法定離婚事由に該当する可能性があるケース
借金が関係する事案において、裁判で法定離婚事由(特に「悪意の遺棄」や「婚姻を継続し難い重大な事由」)と認められやすい事情としては、主に以下のようなケースが挙げられます。
- ギャンブルや過度な浪費、風俗通いなどを理由に多額の借金を重ね、注意されてもやめない
- 自身の借金返済を優先し、長期間にわたり家族に生活費を渡さない(悪意の遺棄に該当する可能性)
- 配偶者に無断で勝手に名義を使って借入を行ったり、配偶者に返済を強要したりする
- 借金が原因で家庭内暴力(DV)やモラハラ行為が恒常化している
- 度重なる隠し借金や虚偽の説明によって夫婦間の信頼関係が完全に失われている
裁判では、借金の金額だけでなく、借金を作った動機や使途、家計への影響、反省の有無、これまでの夫婦関係の実態などを総合的に考慮して判決が下されます。
借金を理由に離婚を進める3つのステップ
配偶者の借金を理由に離婚を検討する場合、法律上の手続きは段階を踏んで進めていくのが一般的です。
日本の法制度では、まずは当事者同士の話し合いから始め、合意に至らない場合に裁判所の手続きを利用する流れが基本となります。
ステップ1:夫婦間の話し合いによる「協議離婚」
離婚手続きの第一段階は、夫婦間で直接話し合いを行って合意を目指す協議離婚です。協議離婚では双方が納得していれば理由は問われないため、借金を理由とした離婚届の提出のみで成立します。
ただし、相手が借金の総額や使途を隠していると、財産分与や養育費などの取り決めが不十分になりかねません。合意できた場合でも、取り決めた条件は離婚協議書や公正証書として形に残しておくことが大切です。
ステップ2:家庭裁判所での「離婚調停」
相手が離婚に応じない場合や、借金の清算・生活費の分担などをめぐって話し合いが平行線をたどる場合は、家庭裁判所に夫婦関係調整調停(離婚調停)を申し立てます。
調停では調停委員会(調停委員2名と裁判官)が双方から個別に話を聞き、合意に向けた仲介を行います。直接相手と対面せずに意見を伝えられるため、感情的な対立を避けて冷静に話し合いを進めやすい点が特徴です。
日本の法制度では調停前置主義が定められており、原則として調停を経ずにいきなり裁判を起こすことはできません。
ステップ3:合意に至らない場合の「離婚裁判(訴訟)」
調停でも合意が得られず不成立(不調)となった場合、最終的な手段として家庭裁判所に離婚訴訟(離婚裁判)を提起します。
裁判では話し合いによる解決ではなく、裁判官が判決によって離婚の可否を決定します。そのため、借金によって婚姻関係が修復不可能なほど破綻している事実を、客観的な証拠に基づいて主張・立証することが必要です。
証拠としては、借入残高がわかる利用明細や督促状、クレジットカードの利用履歴、生活費が渡されていなかったことを示す通帳の記録などが挙げられます。
配偶者の借金に対する返済義務と財産分与への影響
配偶者が多額の借金を抱えている場合、離婚時や離婚後に自分自身へ返済請求が及ぶのではないかと不安を感じる方は少なくありません。また、借金の存在が離婚時の財産分与にどのような影響を与えるのかについても、法的な仕組みを正しく把握しておく必要があります。
配偶者が作った借金の返済義務
日本の民法では「夫婦別産制」が採用されており、婚姻中であっても各自の名義で得た財産や負った債務は個人のものとして扱われます。そのため、原則として名義人以外の配偶者が借金の返済義務を負うことはありません。
配偶者の個人的な浪費やギャンブルによる借金について、名義人でない配偶者が返済を肩代わりする法的な義務はありません。
ただし、例外的に配偶者にも返済責任が生じるケースが存在します。代表的な例として、配偶者が借金の「保証人」や「連帯保証人」になっている場合が挙げられます。この場合、離婚が成立しても保証契約の効力は自動的に消滅しないため注意が必要です。
ご自身が保証人や連帯保証人になっている場合、離婚しても債権者に対する返済義務は残り続けます。
もう一つの例外は、民法761条に規定されている「日常家事債務」に該当する場合です。日々の食費や水道光熱費の支払い、子どもの学費や医療費など、家族の共同生活を維持するために生じた借金については、夫婦が連帯して返済責任を負うとされています。
借金がある場合の財産分与の清算方法
財産分与は、婚姻期間中に夫婦の協力によって築かれた共有財産を公平に分ける手続きです。清算の対象には預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、婚姻生活のために生じたマイナスの財産(借金)も含まれる場合があります。
住宅ローンや自動車ローン、家族の生活費補填のために生じた借金は、夫婦全体の債務として扱われます。財産分与の実務では、夫婦共有のプラスの財産総額から生活関連の借金総額を差し引き、残ったプラスの財産を原則として2分の1ずつ分け合う方法が一般的です。
一方で、配偶者が趣味・ギャンブル・浪費などの個人的な目的で作った借金は「個人の債務(特有財産)」とみなされます。この場合、財産分与において共有財産から差し引かれることはなく、借金を作った名義人本人が単独で返済を背負うことになります。
| 借金の種類・目的 | 配偶者の返済義務 | 財産分与での扱い |
|---|---|---|
| ギャンブル・浪費・個人の趣味 | 原則なし(保証人を除く) | 個人の債務となり、共有財産から控除しない |
| 食費・光熱費などの日常家事債務 | あり(夫婦で連帯責任) | 夫婦共有の債務としてプラス財産から控除 |
| 住宅ローン・教育ローンなど | 保証人・連帯債務者でなければなし | 夫婦共有の債務としてプラス財産から控除 |
なお、夫婦全体の借金総額がプラスの財産総額を上回っている(債務超過の)状態では、財産分与においてマイナス分を分配することは原則として行われません。借金の使途や名義によって法的な扱いが大きく異なるため、事前に事実関係を整理しておくことが重要です。
借金を理由とする離婚で慰謝料は請求できるか
配偶者の借金が原因で離婚に至った場合、相手に対して精神的苦痛に対する慰謝料を請求できるかどうかは状況によって異なります。
離婚に伴う慰謝料は、配偶者の不法行為によって精神的苦痛を被った場合に認められる損害賠償です。そのため、配偶者に借金があるという事実や単なる浪費行為そのものは、直ちに不法行為と評価されるわけではなく、借金のみを理由とした慰謝料請求は認められないケースが一般的です。
慰謝料請求が認められる可能性があるケース
借金そのものではなく、借金に関連して他の有責行為(不法行為)が存在している場合には、慰謝料請求が認められる可能性があります。具体的には以下のような事情が伴う場合です。
- 不貞行為(浮気・不倫)の交際費や貢ぎ物のために借金を重ねていた場合
- 借金を問いただした配偶者に対して暴力(DV)や激しいモラハラに及んでいた場合
- 借金の返済を優先して家庭に生活費を一切渡さず、家族を放置していた場合(悪意の遺棄)
このように、婚姻関係を破綻に至らしめた直接の原因として不貞やDV、生活費の不払いなどが存在する場合は、それらの違法行為を理由として慰謝料を請求できる余地があります。
相手が無資力の場合における実務上の注意点
法的に慰謝料請求が認められる状況であっても、実務上は「相手から実際に回収できるか」という問題が生じます。多額の借金を抱えている配偶者はすでに財産や信用を失っており、無資力(支払い能力がない状態)であるケースが少なくありません。
相手に支払い能力がない場合、合意や判決で慰謝料の支払いが命じられても現実的な回収が困難になるリスクがあります。
相手が無資力で回収が見込めない場合は、慰謝料の金額に固執するよりも、速やかに離婚を成立させて経済的・精神的な負担を切り離すことや、将来の養育費の取り決めを優先することなど、現実的な解決策を検討することが大切です。
まとめ
配偶者の借金を原因とする離婚は、話し合いによる合意があれば成立しますが、裁判へ進む場合は婚姻関係の破綻や悪意の遺棄といった法的判断が求められます。また、保証債務の有無や財産分与への影響についても、事案に応じた法的な整理が不可欠です。
借金の全容が把握できない場合や離婚条件の話し合いが難航する際は、法的な見通しを立てて適切に対処することが大切です。
配偶者の借金問題や離婚の手続きについて不安や疑問をお持ちの方は、弁護士法人ネクスパート法律事務所へ一度ご相談ください。
コラム監修者
Shunsuke Teragaki
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。