更新日:2024年8月15日 (木)
公開日:2023年6月22日 (木)
販売前の犬の健康診断で先天性疾患を見落とした獣医は責任を問われる?
サマリー
ペットショップの依頼で販売前の健康診断を行った獣医師が先天性疾患を見落とした場合、依頼元のペットショップに対しては契約内容次第で契約上の責任を負う可能性があります。他方、契約関係にないペットの購入者に対しては、原則として注意義務を負わないと考えられます。獣医師が確認しておくべき契約のポイントと、遺伝性疾患の隠蔽への対応もあわせて解説します。
ご相談の内容
私は獣医師として、ペットショップからの依頼を受け、販売前の子犬の健康診断や予防接種を行っています。
過去に私が健康診断を実施した子犬が、別の動物病院で避妊手術を受けた際に、その動物病院の獣医師から、動脈管開存症(PDA)という先天性の心疾患があると診断されたそうです。
ペットショップは、当該子犬の購入者に売買代金を返還したようですが、その際に、「(提携している)獣医師が健康だと診断したので販売した」と話したことから、販売前に私が実施した健康診断時の聴診において心雑音を聴き逃した注意義務違反があったと主張され、不法行為に基づく損害賠償(治療費および慰謝料)を請求されました。
PDAは、特徴的な心雑音が発生するので、聴診だけでほぼ診断がつくとされる疾患です。
このような場合、PDAという先天性疾患を見落とした私は、子犬の購入者からの請求に応じなければならないのでしょうか?
回答の結論
ペットショップからの依頼を受けて、販売前の子犬の健康診断や予防接種を実施されているということですので、当該ペットショップとは何らかの契約関係が存在することがうかがえます。
当該ペットショップとの契約内容によっては、契約上の責任を問われる可能性がありますが、契約関係にない子犬の購入者など第三者に対して、子犬の心臓を注意深く聴診する義務は原則として負わないと考えられます。
したがって、ご質問のケースでは、子犬の購入者からの請求に応じる必要はないでしょう。
販売前の犬・猫の健康診断で先天性疾患を見落とした獣医師は法的責任を問われる?
ここでは、ペットショップから依頼されて、販売前の犬・猫の健康診断を実施した獣医師が先天性疾患を見落とした場合、何らかの責任を問われるかどうかについて解説します。
契約関係にあるペットショップに対しては契約上の責任を負う場合がある
ペットショップとの間の契約内容によっては、当該ペットショップに対して、販売前の犬・猫の健康状態の異常や先天性疾患がないかなど注意深く診察すべき契約上の義務を負う場合があります。その義務を果たさなかったことで、犬・猫の先天性疾患を見落とした場合には、契約上の責任を負う可能性があります。
犬・猫に発生しやすい先天性疾患の中には、今回のご質問のケースのように、聴診や外観で容易に診断あるいはその疑いを確認できるものもありますが、ある程度成長して初めて異常が明確となる疾患や、精密機器等を用いた特殊な検査を行わないと判断できない疾患もあります。
ペットショップから依頼を受けて健康診断や予防接種を行う場合には、契約を締結する前に、具体的な検査項目や診察時に求められる実践的水準、販売後のペットに先天性疾患が見つかった場合の責任の所在を確認することが重要です。
契約関係にない犬・猫の購入者に対しては原則として法的責任を負わない
ペットショップが先天性疾患を持つペットを販売していたとしても、そのペットによって、獣医師とは契約関係にないペット購入者などの第三者が、その生命、身体または財産を侵害されることは通常ありません。
そのため、ペットショップから依頼されて販売前のペットの健康診断や予防接種を行う獣医師は、契約関係にないペットの購入者に対して、注意義務を負わないのが原則です。
したがって、ペットショップとの契約に基づいて販売前に健康診断等を行ったペットに、後日先天性疾患が見つかったとしても、当該ペットの購入者からの治療費や慰謝料等の請求に応じる必要はないでしょう。
ペットショップから先天性疾患を隠蔽するための手術を依頼されたら要注意!
ここでは、犬や猫などの小動物医療に従事する獣医師が遵守すべき職業倫理について解説します。
日本は、世界でも目立って先天性(遺伝性)疾患の犬が多いと言われています。
検査技術の向上により病気の発生を減らせるようになったものの、特定の犬種に人気が集中する風潮や遺伝子に異常があると知らないまま繁殖を繰り返すなどのブリーダーの意識の低さが、望ましくない状況を生みだしたと指摘されています。
ペットショップの中には、病気のリスクがある犬・猫でも、安く大量に仕入れて販売しているところもあります。
根治させる治療法がある疾患であれば、治療をして販売できることもあるでしょう。
ただし、ペットショップやブリーダーから遺伝性疾患を隠蔽する目的で手術を依頼された場合は、決して応じてはいけません。
公益社団法人日本獣医師会「小動物医療の指針」においても、「遺伝的欠陥を隠蔽するための手術を依頼された場合には、これに応じてはならない。ただし、譲渡や繁殖に供しないという前提のもとに、生活の質を向上させる目的で行う手術等に関しては、飼育者と協議のうえ実施する。」(14頁)と定められています。
まとめ
ペットショップから依頼されて、販売前の犬・猫の健康診断を実施した獣医師が先天性疾患を見落とした場合、当該ペットショップとの契約内容によっては、注意義務や契約上の責任を問われる可能性があります。
しかし、契約関係にないペット購入者など第三者に対して、注意義務や法的責任を負わないのが原則です。
ペットショップに対して、契約上の注意義務を負うかどうかについては裁判でも争点となることが多いので、お困りの際には早めにご相談ください。
ネクスパート法律事務所では、獣医療法務や動物病院経営法務に関する法律相談を承っております。サービスや経営にお悩みの獣医師は、お気軽にお問い合わせください。
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。
コラム監修者