更新日:2026年10月12日 (月)

公開日:2026年9月9日 (水)

借家人とは?賃借人との違いや法律上の権利・義務を解説

借家人とは?賃借人との違いや法律上の権利・義務を解説 借家人とは?賃借人との違いや法律上の権利・義務を解説

サマリー

賃貸住宅の契約手続きや火災保険の加入時に、「借家人」という言葉を目にして、賃借人との違いや法的な意味が気になった方もいるのではないでしょうか。

建物を借りて生活する立場には、法律上の保護が認められる一方で、善管注意義務や退去時の原状回復といった責任も伴います。

また、不測の事故に備える保険の仕組みを理解しておくことも大切です。この記事では、借家人の基本的な意味や賃借人との違い、法律上で認められている権利・義務、トラブル時の対処法について解説します。

借家人(しゃっかにん)とは?読み方や賃借人との違い

借家人(しゃっかにん)とは?読み方や賃借人との違い

借家人の読み方と基本的な定義

借家人の読み方は一般的に「しゃっかにん」と読みますが、慣用的に「しゃくやにん」と読まれることもあります。

文字どおり「家(建物)を借りている人」を意味し、賃貸借契約に基づいてアパートやマンション、一戸建て住宅などを有償で借り受けている人を指す言葉です。

この言葉は日常会話だけでなく、不動産の賃貸借契約書や火災保険(借家人賠償責任保険)の条項など、不動産取引や保険実務の現場でも幅広く使用されています。

包括的な概念である「賃借人」との関係

借家人と混同されやすい言葉に「賃借人(ちんしゃくにん)」があります。賃借人は民法をはじめとする各種法令で用いられる正式な法律用語であり、賃貸借契約において物を借りる側の当事者を広く指す概念です。

賃借人が借りる対象は建物に限定されず、土地(借地)や自動車、オフィス機器といった動産全般も含まれます。

法的な関係性として、建物を借りている「借家人」は、賃借人という包括的な概念の中に含まれる一つの形態といえます。

「入居者」「店子」など類似語との違い

建物を借りて住む文脈では、借家人のほかに「入居者」や「店子(たなこ)」といった表現が用いられることもあります。

これらは使われる場面や対象範囲がそれぞれ異なります。

用語 主な意味と法的な位置づけ 使われる文脈や対象
借家人(しゃっかにん) 建物を賃貸借契約に基づき借りている人 不動産賃貸契約、火災保険の特約など
賃借人(ちんしゃくにん) 民法上の契約当事者(物を借りる側) 法律全般(建物・土地・動産などすべて)
入居者(にゅうきょしゃ) 実際にその建物に居住・滞在している人 日常用語・実態の把握(同居家族等も含む)
店子(たなこ) 長屋や借家を借りていた人を指す伝統的呼称 日常会話や慣用表現(大家と対比して使用)

「入居者」は契約関係の有無を問わず、実際にその住宅に住んでいる人を広く指す言葉です。

例えば、親が契約者(借家人・賃借人)となって子どもと同居している場合、子どもも入居者に該当します。

「店子」は歴史的な背景を持つ慣用表現であり、現代の契約実務や法的手続きで公式に用いられることは基本的にありません。

契約内容や保険の補償対象を確認する際は、それぞれの言葉が指す対象を正しく区別して捉えることが役立ちます。

法律上認められている借家人の主な権利と義務

建物の賃貸借契約を締結すると、借家人には生活の拠点として平穏に過ごすための法的な権利が認められます。

一方で、他人の所有物を使用している立場である以上、適切な管理や契約条項を遵守する法的な義務も負うことになります。

借地借家法や民法で保護されている主な権利

借家人に認められている代表的な権利の一つが「使用収益権」です。契約に基づき目的の建物を平穏に使用できる権利であり、所有者である貸主であっても、正当な理由なく無断で居室内に立ち入ることは原則として認められません。

また、生活に必要な設備が故障した際には、貸主に対して修繕を求める「修繕請求権」を有しています。状況や一定の要件を満たす場合には、借家人側が必要な修繕を手配し、その費用を貸主に請求できる規定も設けられています。

さらに、借地借家法によって契約更新の権利が手厚く保護されている点も特徴的です。

貸主側からの一方的な契約解除や更新拒絶には「正当事由」が求められるため、急な立ち退きを迫られにくい仕組みになっています。

遵守すべき基本的な義務と善管注意義務

借家人が負う基本的な義務としては、定められた期日までに家賃を支払う「賃料支払義務」や、住居専用などの契約条件を守って利用する「用法遵守義務」が挙げられます。

加えて、建物を借りている間は「善管注意義務(善良なる管理者の注意義務)」が課されます。

これは社会通念上要求される一般的な注意を払って物件を使用・管理する責任であり、日常的な掃除を怠ったり結露を放置してカビを広げたりした場合には、義務違反と判断される可能性があります。

退去時の原状回復義務と通常損耗・経年劣化の考え方

賃貸借契約が終了して退去する際、借家人には物件を元の状態に戻して明け渡す「原状回復義務」が生じます。

ただし、入居時の状態に完全に復元しなければならないわけではありません。

原状回復の対象となるのは、借家人の故意や過失、善管注意義務違反によって発生した汚れや破損に限られます。

建物の経年劣化や、通常の日常生活によって生じる「通常損耗」の修繕費用は、原則として貸主側の負担となります。

区分 具体例 基本的な修繕費用の負担者
通常損耗・経年劣化 家具の設置による床のへこみ、日焼けによる畳・壁紙の変色 貸主
借家人の過失・不注意 引越し作業で生じた壁の傷、結露の放置によるカビの拡大 借家人
故意・重過失 壁への過度な落書き、タバコの不始末による焦げ跡 借家人

借家人賠償責任保険の役割と加入が求められる理由

賃貸住宅で火災や漏水などの事故を起こし、借りている部屋に損害を与えてしまった場合、借家人は貸主に対して法律上の損害賠償責任を負うことがあります。

このような不測の事故によって生じる経済的負担に備える仕組みが「借家人賠償責任保険」です。

一般的に、賃貸借契約を結ぶ際には賃貸住宅向けの火災保険への加入を求められますが、そのプラン内に特約などの形で組み込まれているケースが多く見られます。

家財保険や個人賠償責任保険との補償対象の違い

賃貸借契約の際に加入する保険プランには複数の補償が含まれていることが一般的であり、それぞれ保護する対象や損害の範囲が異なります。

保険の種類 主な補償対象 補償される損害の例
家財保険 借家人自身の財産 火災や落雷、盗難などによる家具・家電・衣類の被害
個人賠償責任保険 第三者(隣人など) 洗濯機のホース外れによる階下への漏水被害、日常生活での他人の怪我
借家人賠償責任保険 貸主(大家) 失火や水漏れによって借りている部屋(専有部分)を破損・汚損させた損害

個人賠償責任保険に加入していれば階下の住人など第三者への賠償はカバーできますが、借りている部屋そのものの損害は補償の対象外となります。

そのため、貸主に対する損害を填補するには借家人賠償責任保険の手当てが不可欠となります。

失火責任法と契約上の債務不履行責任の関係

日本の法制度には「失火責任法(失火ノ責任ニ関スル法律)」があり、重大な過失がない限り、誤って火災を起こして他人の財産に損害を与えても不法行為に基づく賠償責任は問われません。

しかし、借家人と貸主の間には賃貸借契約が存在します。借家人は契約終了時に目的物を適切に返還する義務を負っているため、失火責任法が適用される場面であっても、契約上の「債務不履行責任」に基づく損害賠償義務は免れません。

重大な過失がない失火であっても、貸主に対する契約上の損害賠償責任は失火責任法によって免責されない点に注意が必要です。

居室を全焼させた場合などは損害額が数千万円規模に達することもあるため、借家人の予期せぬ過大な負担を抑え、貸主の資産を保全する観点から、実務上契約時の保険加入が広く求められています。

借家人と貸主・管理会社の間で起きやすいトラブルと対処法

借家人と貸主・管理会社の間で起きやすいトラブルと対処法

賃貸借契約の期間中や退去時には、借家人と貸主(大家)、あるいは管理会社との間で認識の相違が生じ、トラブルに発展することがあります。

あらかじめ起きやすい問題の傾向と適切な対応手順を把握しておくことが大切です。

退去時の原状回復費用や敷金返還をめぐるトラブル

賃貸物件の退去時において特に多く見られるのが、原状回復費用の負担区分や敷金の返還額をめぐる争いです。

借家人には退去時の原状回復義務がありますが、通常の使用に伴う損耗や経年劣化の修繕費用は賃料に含まれており、貸主側が負担するのが原則とされています。

しかし、退去時にハウスクリーニング費用や壁紙(クロス)の張替え費用などを全額請求される事例も散見されます。

こうしたトラブルへの備えとしては、入居時および退去時の室内の状況を写真や動画で記録に残しておくことが有効です。

国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」などを確認し、請求内容や特約の有効性を精査することが役立ちます。

入居中の設備故障や近隣トラブルへの初期対応

エアコンや給湯器など、物件に備え付けられている設備に不具合が発生した場合、原則として貸主に修繕義務があります。

借家人が独断で修理業者を手配してしまうと、後から費用の負担について争いが生じる原因になりかねません。

設備が故障した際は、速やかに貸主や管理会社へ状況を報告し、修繕の手配や指示を仰ぐのが適切な手順です。

また、騒音や悪臭などの近隣トラブルについても、当事者同士で直接交渉すると感情的な対立を招くリスクがあるため、まずは管理会社に相談して間に入ってもらう対応が推奨されます。

トラブルの類型 主な問題内容 推奨される初期対応
退去時の原状回復・敷金 通常損耗分の請求や過大な修繕費用の請求 契約書やガイドラインの確認、入退去時の記録写真の提示
備え付け設備の故障 エアコンや給湯器の故障と費用負担の争い 自己判断で修理を手配せず、貸主・管理会社へ速やかに連絡
騒音などの近隣トラブル 生活音や悪臭などをめぐる入居者間の摩擦 当事者間の直接交渉を避け、管理会社へ状況を伝えて対応を依頼

当事者間での解決が難しい場合に利用できる公的窓口

当事者同士での話し合いを重ねても合意に至らない場合や、請求額が妥当でないと感じる場合は、外部の相談機関を利用するのも一つの方法です。

自治体の消費生活センターや国民生活センターでは、賃貸住宅に関する相談を受け付けています。

法的な対立が深まった場合や高額な損害賠償を請求された場合などは、弁護士会や法テラス(日本司法支援センター)などの法律相談窓口を通じて、法的観点から適切な対処法を確認することが検討されます。

賃貸借契約をめぐるトラブルと弁護士への相談

賃貸借契約においては、契約書の文言や特約の有効性をめぐって貸主と借家人の間で解釈が食い違い、当事者同士の話し合いだけでは解決が難しくなることがあります。

契約書に記載があるからといって、すべての条項が無条件に有効とされるわけではなく、法令や判例に照らして妥当性を検討することが必要になる場面も少なくありません。

法的妥当性の判断が必要になる主な場面

法的な判断が特に求められやすい典型例として、契約書に定められた特約条項の効力が挙げられます。例えば、通常損耗の補修費用を借家人が負担するという特約や、高額なクリーニング費用を定めた特約などが該当します。

これらの特約は、借家人に一方的に過重な負担を課す内容である場合、消費者契約法や借地借家法の趣旨に照らして効力が制限されたり、無効と判断されたりする可能性があります。

また、建物の老朽化や貸主側の事情による立ち退き要求において、借地借家法上の「正当事由」が具備されているかどうかや、提示された立ち退き料の妥当性を検討する際にも法律上の解釈が重要になります。

法的な対立において弁護士へ相談する意義

貸主や管理会社との交渉が膠着したり、法的な主張が対立したりした場合には、法律の専門家である弁護士への相談が検討されます。

弁護士に相談することで、契約条項や事実関係をもとに、関係法令や過去の裁判例に即した客観的な見通しを把握しやすくなります。

不当と考えられる請求や条件提示に対して法的な根拠に基づいて対抗方針を整理できる点が大きな意義といえます。

また、当事者同士での直接交渉では感情的な対立が深まりやすい側面がありますが、弁護士を介することで冷静な協議を進めやすくなり、調停や訴訟といった法的手続きへの移行時にも一貫した対応が可能になります。

コラム監修者

Shunsuke Teragaki

Shunsuke Teragaki

所属:代表(東京オフィス)

広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。

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