更新日:2026年9月10日 (木)
公開日:2026年9月10日 (木)
同一労働同一賃金の省令・告示改正~2026年10月施行の実務対応~
サマリー
2026年10月1日、同一労働同一賃金に関する省令・告示の改正が施行されます。改正されたのは施行規則1本と告示2本で、法律本体は変わりません。ただし企業規模による猶予はなく、パートタイム労働者・有期雇用労働者を1人でも雇用していれば対象となります。新たな手続義務は雇入れ時の明示事項の追加で、労働条件通知書などの書式改訂が必要です。就業規則の届出まで含めると、9月中に対応を終える必要があります。
「対応が必要だとは聞いているものの、法律そのものが変わったわけではないので後回しにしている」という状態のまま10月1日を迎えようとしている中小企業は、少なくありません。今回の改正は施行規則と告示にとどまりますが、適用範囲に企業規模の線引きはなく、パートタイム労働者を雇用している事業主に等しく及びます。残り1か月で何を終えておくべきかを整理します。
2026年10月1日施行の改正の全体像
今回施行されるのは、令和8年4月28日に公布された改正省令(令和8年厚生労働省令第87号)と、2本の改正告示(令和8年厚生労働省告示第202号・同第203号)です。告示第202号は「事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針」(平成19年厚生労働省告示第326号)を、告示第203号は「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(平成30年厚生労働省告示第430号。いわゆる同一労働同一賃金ガイドライン)を、それぞれ改正するものです。
法律本体である短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パートタイム・有期雇用労働法」といいます。)は改正されていません。不合理な待遇の禁止(8条)、差別的取扱いの禁止(9条)、事業主が講ずる措置の内容等の説明(14条)という骨格は維持され、その運用の指針が補強される設計です。今回の改正が「法律が変わっていないのだから対応は不要」と受け取られやすいのは、この構造によるものと考えられます。もっとも、事業主が講ずべき措置の内容と、雇入れ時に明示すべき事項は現に変わります。
適用範囲についても、企業規模による猶予は設けられていません。パートタイム労働者・有期雇用労働者を1人でも雇用していれば対象となります。人事部門を置く大企業では対応が進む一方、中小企業では手つかずのまま残っているケースが目立ちます。
改正の内容
雇入れ時の明示事項の追加(省令)
今回、新たな手続義務が生じるのはこの部分です。パート・有期雇用労働者を雇い入れる際に事業主が明示すべき労働条件に、通常の労働者との待遇差の内容および理由等について説明を求めることができる旨が追加されます。
もっとも、説明請求権そのものは法14条に既に置かれている制度です。新設されるのは、その権利があることを雇入れ時(労働契約更新時も含む)に伝える義務であり、権利の中身が広がるわけではありません。実務としては、労働条件通知書・雇用契約書のひな形に条項を1つ加える対応になります。適用されるのは、施行日である10月1日以降に雇い入れる労働者(労働契約を更新する労働者も含む)からです。厚生労働省がモデル労働条件通知書を公表していますので、これを参照して自社書式を整えることになります。なお、労働条件の明示をめぐる問題については、募集要項で告知していた条件(賃金)と異なる条件で雇用することの問題点もあわせてご参照ください。
同一労働同一賃金ガイドラインの改正(告示第203号)
実務上の影響が最も大きいのは、こちらの改正です。賞与・退職手当・無事故手当・家族手当・住宅手当・病気休職・夏季冬季休暇・褒賞について、待遇差を設ける際の考え方が具体化され、福利厚生施設の利用に関する記載についても充実しました。このうち退職手当・無事故手当・家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇・褒賞は新たに待遇に関する原則となる考え方が示された項目です。いずれも中小企業で支給の有無が分かれやすい待遇であり、自社の規程を点検する必要があります。無事故手当は運送業などで支給例が多く、業務の内容が同一の非正規労働者には正社員と同一の支給が求められる点に注意が必要です。
雇用管理改善措置指針の改正(告示第202号)
事業主が講ずべき措置の内容が見直され、説明義務に対応するための体制整備が明確化されました。説明の担当者を定めること、説明資料をあらかじめ準備しておくこと、待遇制度の設計における労使協議を充実させることなどが挙げられています。総務担当者が1人か2人という規模の会社では、誰が説明に当たるのかを決めないまま説明を求められる場面が想定されますので、この点は形式的な整備で済ませないほうが安全です。
待遇差の合理性をどう検討するか
判断の軸は手当ごとに異なる
改正後のガイドラインは、手当ごとに判断の着眼点を個別に定めています。賞与と退職手当は、労務の対価の後払い・功労報償などの性質・目的が非正規にも妥当するかで判断します。これに対し、家族手当は継続的な勤務が見込まれるか、住宅手当は転居を伴う配置変更の有無、無事故手当や精皆勤手当は業務の内容が同一か、役職手当は役職の内容が同一かというように、手当の種類ごとに着眼点が異なります。したがって、まず自社の各手当がどの種類に当たるかを整理し、その手当に定められた着眼点に照らして差の合理性を検討することになります。
たとえば、住宅手当について、転居を伴う配置変更の有無に応じて支給しているのであれば、正社員と同一の配置変更があるパート・有期雇用労働者には同一の住宅手当を支給する必要があり、配置変更が見込まれない者に支給しないことは問題となりません。
改正ガイドラインは、住宅手当についてこの「転居を伴う配置変更の有無」を判断の着眼点として明示しています。家族手当については別の着眼点が置かれており、労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれるパート・有期雇用労働者には、正社員と同一の家族手当を支給しなければならないとされました。逆に、短期の反復更新がなく継続的な勤務が見込まれない有期雇用労働者に家族手当を支給しないことは、問題とならない例として挙げられています。自社の各手当が何を着眼点として支給されているのかを明文化していない会社では、この検討の出発点が欠けている状態です。
影響が大きくなりやすい企業・業種
判断の枠組み自体は、従来と変わりません。①職務の内容(業務の内容と責任の程度)、②職務の内容・配置の変更の範囲、③その他の事情という3要素で検討します。
したがって、基幹業務をフルタイムで担う有期雇用労働者に対し、正社員ではないからという理由のみで正社員に支給している手当を不支給とする運用は、従来以上に不合理と判断されるリスクが高まります。パートタイム・有期雇用労働法の対象は所定労働時間の短いパートタイム労働者に限られず、フルタイムであっても有期雇用であれば対象となります。非正規比率の高い小売・飲食・運送・医療介護などの業種では、影響が大きくなりやすい改正です。正社員とほぼ同じ仕事を任せている非正規労働者がいる会社ほど、優先して着手すべきといえます。
9月中に完了させたい実務対応
残された期間で着手すべき事項は、次のとおりです。
- 待遇の棚卸し
正社員と非正規社員の職務内容・配置変更の範囲を整理し、基本給、賞与、退職金、家族手当、住宅手当、役職手当、休暇、福利厚生の支給基準を一覧化します。あわせて、各手当の支給目的を明文化します。 - 差の理由の整理
待遇差がある項目について、前記の3要素のいずれで説明するのかを個別に書き出します。説明が立たない項目は、支給対象の拡大または基準の再設計を検討します。 - 規程の改訂
前記2の整理の結果、支給対象や支給基準を見直す場合は、就業規則、賃金規程、退職金規程、諸手当規程を改訂します。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、労働者代表の意見書を添えて労働基準監督署に届け出る必要があります。意見聴取と届出の日数を逆算すると、9月中の完了が必要になります。 - 書式の改訂
労働条件通知書・雇用契約書に新たな明示事項を追記し、10月1日以降の雇入れから使用します。電子交付を行う場合は、労働者本人が電子交付を希望していることの確認が必要です。 - 説明対応フローの整備
誰が説明の求めを受け付け、いつまでに、どの資料に基づいて回答するかを定め、対応の記録を残す運用とします。
このうち3の規程改訂は、意見書の作成と届出という外部の手続を挟むため、最も日数を要します。着手の順序に迷う場合は、1と2を先に走らせながら3の準備を並行させる進め方が現実的です。
説明資料の整理が紛争時の防御資料にもなる
各待遇について、支給目的・正社員の取扱い・非正規社員の取扱い・差の理由を整理した一覧表を作成しておけば、説明義務への対応資料としてそのまま使えるうえ、紛争に至った場合の防御資料にもなります。準備の負担は小さくありませんが、成果物が二重に機能する点で、投じる労力に見合う対応といえます。実際に紛争となった場合の流れについては、労働審判申立書が届いたら|必要な準備と手続きの流れをご参照ください。
なお、派遣労働者を受け入れている場合は、労使協定方式に関する考え方の具体化を含め、別途の検討が必要です。外部人材の活用にあたっての事業主の義務については、フリーランス保護新法とは?知らないと危険な企業の義務と下請法との違いもあわせてご覧ください。
まとめ・ご相談はネクスパート法律事務所へ
今回の改正について、着手前に押さえておきたい点は次の3点です。
- 法律本体は変わらないが、省令・告示の改正により対応事項は生じる
- 企業規模による猶予はなく、パートタイム労働者を雇用していれば対象となる
- 新たな手続義務は雇入れ時の明示事項の追加で、10月1日以降の雇入れから適用される
規程の改訂は届出の日数を見込む必要があるため、9月中に一連の作業を終えておくのが安全です。まずは待遇の一覧化と各手当の支給目的の明文化から着手し、説明の立たない項目が見つかった段階で、支給対象の見直しを検討することになります。個別の手当について差の合理性を判断できるかどうかは、自社の職務実態によって結論が変わりますので、判断に迷う項目が残った場合は早めに弁護士へご相談ください。
ネクスパート法律事務所では、企業の法律問題に関するご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。