【弁護士が解説】Web3ビジネスのため国外移住する際の日本税務上留意点

日本から拠点を海外に移転し、第3国でWeb3ビジネスを立ち上げる場合、原則として当該第3国でのみ税金が課されることになりますが、予期せず起業家個人や株主に対して日本で課税される場合があります。本稿では、Web3ビジネスを国外で起業する際に留意すべき日本の税制概要について弁護士が解説します。

なお、本稿で解説する各税制それ自体とても複雑であるため、その詳細は別記事にて解説します。

目次

出国税の概要及び留意点

シンガポールやドバイなどの第3国でWeb3ビジネスを立ち上げる場合、起業家個人もあわせて海外に移住することが通常です。その際気をつけなければならないのは、起業家個人が保有する金融資産について課税が実施されるリスクが存在することです。

日本には、国外転出時課税(いわゆる出国税)という制度が存在します。出国税とは、平成27年7月1日以後に国外転出をする一定の居住者が1億円以上の対象資産(※いわゆる金融資産が主に対象となります)を所有等している場合には、その対象資産の含み益に所得税及び復興特別所得税が課税される制度です。

例えば、起業家個人(日本居住)が1,000万円で取得した日本の非上場上株式持分の価値が、日本からシンガポールに出国する時点で10億1,000万円まで上がっていたとします(含み益10億円)。この事例で何もしないで日本からシンガポールに移住した場合、10億円分の含み益に対して課税がされる結果、1円も現金を取得していないにも関わらず起業家個人に約2億円分の納税義務が発生するおそれがあります(この場合の税率は20.315%)。

なぜこのような制度が存在するのでしょうか。日本では、株や暗号資産など保有する資産を売却することで得られる利益(キャピタルゲイン)に対して課税がされますが、シンガポールやドバイなどキャピタルゲインに対する課税制度を設けていない国ではキャピタルゲインに対して税金は発生しません。仮に出国税がないと、上記事例では日本で株を売却した場合には約2億円の納税義務が発生するのに対して、日本非居住者となった後にシンガポールで株式を売却した場合1円も税金を支払わなくて良いことになり不均衡が発生する可能性があります(※実際には日星租税条約において事業譲渡類似の株式譲渡については日本でキャピタルゲインに対する納税義務が発生するなど複雑な点がありますが、理解促進のため簡略化し説明しておりますのでご留意ください。)。このような各国の税制の違いを利用し納税義務を回避することを防止するために創設されたのが出国税なのです。

Web3ビジネスのため国外移住する場合、金融資産を多く保有していると予期せず多額の課税がなされる可能性があるため、自身に出国税が課されるおそれがないか慎重に確認することが推奨されます。

なお、出国税が課されるケースであっても納税猶予制度を利用することで支障が生じない形で対処できる場合もあります。出国税が適用される=Web3ビジネスの国外立上げ不可を意味するわけでは必ずしもありません。

タックスヘイブン税制概要及び留意点

日本では、外国子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン税制)という税制が存在します。タックスヘイブン税制とは、実質的活動を伴わない外国子会社等の所得に相当する金額について、その日本法人親会社等の所得とみなし、それを合算して日本国内で課税する制度です。

なぜこのような制度が存在するのでしょうか。タックスヘイブン税制の目的は、日本法人が、実質的活動を伴わない外国子会社等を利用する等により、日本国内の税負担を軽減・回避する行為に対処する点にあります。タックスヘイブン税制がないとどうなるのでしょうか。例えば、日本の会社が法人税率0%(※2022年8月現在)のドバイでペーパーカンパニー子会社を設立したものとします。このドバイ子会社に売上を集中させると、仮にタックスヘイブン税制がない場合、ドバイ子会社の売り上げについては日本及びドバイの双方で納税義務が発生しないという結果となってしまいます。売上をペーパーカンパニー経由とすることで税負担が回避できてしまうというのは明らかに不合理ですので、このような事態を防ぐために設けられたのがタックスヘイブン税制と言えます。

海外におけるWeb3ビジネス立ち上げとの関係では、事業実態と株主構成によっては、タックスヘイブン税制が適用される結果、日本に所在する株主に対して課税が発生するリスクがあることを認識することが重要です

では、海外におけるWeb3ビジネスとの関係で、どのような条件下でタックスヘイブン税制が問題となるのでしょうか。詳細は別記事に譲りますが、典型的には以下のケースで問題となります。

  1. Web3ビジネスの器としてドバイやシンガポールで法人を設立するが、ペーパーカンパニーに過ぎず、株主も含め事業の遂行が日本国内のみで行われるケース
  2. Web3ビジネスの器としてドバイまたはシンガポール法人を設立したが、その株式50%超を日本法人または日本居住者が保有しており、海外法人所在国において事業に必要な事業所等を有しないケース
  3. Web3ビジネスの器としてドバイまたはシンガポール法人を設立したが、その株式50%超を日本法人または日本居住者が保有しており、海外法人所在国において事業の管理支配または運営が行われていないケース

特に②または③については予期せず条件に該当する可能性がありうるため、Web3ビジネスのため国外移住する場合、あらかじめタックスヘイブン税制の適用を受けないよう事業運営モデルについて検討しておくことが重要となります。

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