みなし弁済とは?旧法の規定や過払金請求との関係をわかりやすく解説
旧貸金業規制法にはみなし弁済という規定がありました。現在は廃止されていますが、かつてはこの規定により消費者が高利に苦しむという問題が生じていました。
過払金返還訴訟においては、現在でもみなし弁済が争点となることがあります。
みなし弁済とはどのような制度なのでしょうか?
この記事では、みなし弁済について、次のとおり解説します。
- みなし弁済とは?
- みなし弁済の適用を否定した判決
- みなし弁済が撤廃された経緯
- みなし弁済が認められる要件
- みなし弁済と過払金の関係
過払金請求についてより深く理解したい方は、ぜひご参考になさってください。
みなし弁済とは?
ここでは、みなし弁済制度の概要について解説します。
本来無効な利息の支払いを有効な弁済として扱う旧貸金業法の規定
みなし弁済とは、貸金業者が利息制限法の上限を超える高金利の利息を受領しても、一定の条件を満たせば有効な利息の弁済があったとみなす規定です。
過払金は、利息制限法の上限利率を超えて支払われた利息です。利息制限法の上限利率を超えて支払われた利息は、本来無効な弁済であり、不当利得として債務者に返還されるべきものです。
しかし、みなし弁済の規定により、債務者が利息として任意に支払った場合は、有効な利息の弁済とみなされていたのです。
みなし弁済によりグレーゾーン金利が黙認されていた
みなし弁済が適用されると、本来無効であるはずの利息の受領が有効となります。そのため、利息制限法の上限利率を超えてはいるものの出資法で処罰の対象とならない、いわゆるグレーゾーン金利での貸し付けが常態化していました。
グレーゾーン金利とは?
グレーゾーン金利とは、利息制限法の上限金利(15%~20%)を超え、出資法の上限金利(当時29.2%)の範囲内の金利のことです。利息制限法の上限金利を超えた利息の支払いは、民事上は無効です。では、なぜグレーゾーン金利での貸し付けが認められたのでしょうか。
出資法で罰則を定めている金利(29.2%)を超えなければ、刑事上罰せられなかったからです。
なお、現行の出資法の上限金利は20%と定められています(平成18年12月改正)。
みなし弁済の適用を否定した判決
ここでは、みなし弁済の適用を否定した判決を紹介します。
最高裁判所平成18年1月13日判決(シティズ判決)
みなし弁済は、社会的弱者である債務者を保護する利息制限法の趣旨を外れ、債務者に不利益を与える制度です。消費者金融の高金利や多重債務の問題が社会現象として取り上げられるようになり、裁判でもみなし弁済の適用が激しく争われました。
平成18年1月13日、最高裁判所は、みなし弁済の適用を実質的に否定する判決を下しました。この判決は通称シティズ判決と呼ばれています。
シティズ判決は、貸付の際に期限の利益喪失特約を定めていた場合には、債務者に支払いを事実上強制することになるといえるため、利息制限法の上限金利を超える利息の支払いに任意性は無いと示しました。
みなし弁済が撤廃された経緯
ここでは、みなし弁済が撤廃された経緯を解説します。
多重債務が社会問題となる
みなし弁済により、本来民事上無効な利息の支払いも有効な弁済として扱われていました。法律知識に乏しい消費者は、高利に苦しみ返済のために借入れを繰り返ようになりました。多重債務問題が社会現象に発展し、みなし弁済の撤廃を求める世論の声も大きくなりました。
最高裁判例が法改正を後押し
シティズ判決は、みなし弁済が認められる場面を事実上否定し、みなし弁済規定を死文化させました。この判決が法改正を後押ししました。
2010年みなし弁済規定は廃止が実現
2010年に改正された貸金業法(2006年公布)において、みなし弁済規定の撤廃が実現しました。
みなし弁済が認められる要件
ここでは、みなし弁済が認められる要件を解説します。
形式的要件
みなし弁済が認められるための形式的要件は次のとおりです。
貸金業登録されている貸金業者であること
貸主が、貸金業登録されている貸金業者であることが必要です。
闇金業者は貸金業登録を行っていないため、みなし弁済は認められません。
貸金業法17条の契約書面を交付したこと
貸主が、貸付の際に、法律の要件を満たす書面を借主に交付したことが必要です。
契約書面には、貸金業法17条で定める次の事項が1枚の用紙に漏れなく記載しなければなりません。
- 貸金業者の商号・名称・住所
- 契約年月日
- 貸付けの金額
- 貸付けの利率
- 返済の方式
- 返済期間および返済回数
- 賠償額の予定に関する定めがあるときはその内容
- その他内閣府令で定める事項
貸金業法18条の受取証書を交付したこと
貸主が、弁済を受領した際に、法律の要件を満たす書面を借主に交付したことが必要です。
受領証書には、貸金業法18条で定める次の事項が1枚の用紙に漏れなく記載しなければなりません。
- 貸金業者の商号・名称・住所
- 貸金業者の商号、名称または氏名および住所
- 契約年月日
- 貸付けの金額
- 受領金額及びその利息
- 賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額
- 受領年月日
- その他内閣府令で定める事項
実質的要件
みなし弁済が認められるための実質的要件は次のとおりです。
利息の支払いと認識して支払われたものであること
借主が利息の支払いと認識して約定利息を支払ったことが必要です。
借主が、支払時に、利息制限法に違反する高金利と認識して支払っていなければ認められません。
利息として任意に支払われたものであること
借主が任意に約定利息を支払ったことが必要です。
借主が、貸金業者から強制されることなく、自由意思で利息を支払っていなければ認められません。
みなし弁済と過払金の関係
ここでは、みなし弁済と過払金の関係を解説します。
みなし弁済が適用されると過払金が請求できない
過払金を請求において、貸金業者のみなし弁済の主張が認められた場合は、払い過ぎた利息を取り戻せません。
みなし弁済規定の撤廃された現在では、みなし弁済が認められるケースはめったにありません。みなし弁済が認められるには、厳格な条件を満たさなければならないからです。
現在も過払金請求訴訟ではみなし弁済が主張されることがある
みなし弁済規定が撤廃された現在でも、過払金請求訴訟では、貸金業者がみなし弁済を主張することがあります。
貸金業者の主張が認められることはほとんどありませんが、法律知識に乏しい一般の方がご自身で対応するのは難しいでしょう。過払金請求の場面で、貸金業者からみなし弁済を主張されたら、弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
みなし弁済規定が撤廃された現在においても、過払金請求の場面でみなし弁済が争点になることがあります。
現在ではみなし弁済が認められるのは極めて稀なことです。しかし、専門家に頼らず自分で過払金請求した場合、法律知識の乏しさを悪用されることがあります。貸金業者にみなし弁済を主張されたら、迷わず弁護士に相談しましょう。