略式起訴、略式裁判とは?不起訴との違いについても解説
略式起訴、略式裁判という言葉はあまり馴染みのある言葉ではなく、起訴や不起訴と区別できていない方も多いと思われます。
そこで今回は、略式起訴や略式裁判、不起訴との違いについて解説してまいります。
起訴と不起訴の違い
略式起訴、略式裁判の説明をする前に、起訴と不起訴の違いを解説いたします。
起訴とは
起訴とは、検察官が裁判所に対して「刑事裁判を開いてください」という意思表示を行うことです。
検察官の刑事処分の一種で、別名、公訴提起ともいいます。
起訴は、以下の情報を記した起訴状を裁判所に提出することになって行います。
- 被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項(生年月日、本籍、住所、職業)起訴年月日
- 公訴事実
起訴には、大きく分けて、公判請求と略式起訴の2種類があります。
公判請求は、公開の法廷で刑事裁判を行う正式裁判を求めるための起訴です。
検察官は、正式起訴時には、捜査で収集した証拠を起訴状と同時に提出してはいけないことになっています。
他方で、略式起訴は、公開の法廷ではなく、裁判官の書面審理のみの刑事裁判(略式裁判)を求めるための起訴です。
略式起訴時には、検察官が選別した証拠が起訴状(略式命令請求書)と同時に裁判所に提出されます。
不起訴とは
不起訴とは、検察官が行う起訴しない刑事処分のことです。
不起訴処分を受ければ刑事裁判を受ける必要はありません。したがって、懲役、禁錮、罰金などの刑罰を受けることもなく、前科も付きません(※前歴は付きます)。
不起訴処分は、不起訴処分裁定書という書面に、不起訴理由(裁定主文)や理由の要旨等を記載して行われます。
不起訴処分は検察庁内部の手続きで完了するため、被疑者とすれば、不起訴処分を受けたのかどうかの時期はいつか分かりません。
そこで、検察庁に請求すれば「不起訴処分告知書」という書面の交付を受けることができます。
これにより正式に、いつ不起訴処分を受けたのか知ることができます。なお、不起訴理由については知ることはできません。
不起訴理由には様々な理由がありますが、実務で多く見かけるのが起訴猶予と嫌疑不十分です。
起訴猶予は、犯罪が成立することは明白であるものの、検察官が被疑者の事情を配慮して不起訴理由とするものです。
注意すべきことは、あくまで起訴を猶予された(見送られた)にすぎず、無罪になったという意味ではありません。
他方で、嫌疑不十分は、犯罪を立証し得る証拠が不十分であることを不起訴理由とするものです。
要は、検察官が「起訴しても刑事裁判で無罪となるおそれがある」と判断した場合は嫌疑不十分による不起訴処分を受けるということになります。
略式起訴、略式裁判とは
略式起訴とは、前述のとおり、検察官が行う起訴の一種で、略式裁判を求めるための起訴です。
略式裁判とは、文字通り、簡略化された刑事裁判のことです。
正式裁判では、起訴された被告人は公開の法廷へ出廷し、裁判官・弁護人・検察官及び傍聴席に座っている傍聴人の目の前で刑事裁判を受けなければなりません。
ところが、正式裁判で必要な法廷への出廷が不要なのが略式裁判です。
正式裁判のように公開の法廷が開かれるわけではありません。
簡易裁判所の裁判官が自身の執務室で検察庁から提出された証拠書類を読み込み、略式裁判を行うことが相当と判断した場合は略式命令を発します。
なお、略式裁判で発することができる略式命令は「100万円以下の罰金又は科料」で付加刑として没収(※)を付されることもあります。
※没収
物の所有権を強制的に剥奪する処分。法律で必ず没収しなければならないこととなっている必要的没収と、没収するか否か裁判官の判断に委ねられる任意的没収があります。
法律上は執行猶予を付けることもできるとされていますが、執行猶予が付いた略式命令は、実務上はあまり見かけません。
略式起訴前から略式起訴、略式裁判、罰金納付までの流れ
略式起訴前から略式起訴、略式裁判、罰金納付までの流れは以下のとおりです。
- 略式裁判を受けることに対する同意(検察官の取調べ時)
- 略式起訴
- 略式裁判
- 略式命令発布
- 略式命令謄本送達
- 略式裁判確定
- 罰金納付
略式裁判は、憲法で保障された公開の法廷で刑事裁判(正式裁判)を受ける手続きを省略化するものですから、略式裁判を行うには①被疑者の同意が必要です。
被疑者の同意が得られると、検察官は起訴状、被疑者の同意書、証拠書類を簡易裁判所へ提出して②略式起訴します。
略式起訴されると③略式裁判を経て④略式命令が発せられます。
②から③、④までの期間も特に決まりはありませんが、①からおおよそ1か月から1か月半は要するでしょう。
略式命令の内容は⑤略式命令謄本という書面の送達により、被告人(略式起訴された人)に告知されます。
略式命令謄本には、被告人の本籍・住所・氏名・生年月日、罰金額、罰金を納付することができなかった場合は労役場に留置する旨(※)、公訴事実(起訴事実)、罪名及び罰条などが記載されています。
※労役場留置
罰金を納付することができなかった場合に、1日を5,000円(金額は裁判官が決定します。略式命令謄本に記載されています。)に換算して、罰金額に満まで労役場(刑務所)に収容する処分のこと。
たとえば、罰金40万円を納付することができなかった場合は80日間、労役場に収容されます。
略式命令謄本は、略式命令が発せられると直ちに送達されます。したがって、①から⑤もおおよそ1か月から1か月半程度を要します。
なお、被告人は、略式命令謄本の送達を受けた日から14日以内に、略式命令を発した簡易裁判所宛に正式裁判の申立てを行うことができます。
①で略式裁判を受けることに同意したものの、気が変わって正式裁判を受けたいという場合は、この段階でも申立てを行うことができる救済措置が取られているのです。
他方で、14日以内の間に正式裁判の申立てを行わず期間が経過した場合は「罰金●●万円」という略式命令を発した⑥略式裁判が確定します。
略式裁判が確定すると、正式に略式命令謄本に記載された罰金を納付しなければならなくなります。
もっとも、実務上は、通常、⑤から⑥の間、つまり上記の14日以内でも罰金を納付すことができる措置が取られています。
検察庁から納付告知書が送られてきますから、それを持ってお近くの金融機関か検察庁の窓口で罰金を納付します。
まとめ
略式起訴は起訴の一種です。
そして、起訴と不起訴は異なる刑事処分ですから、略式起訴と不起訴もまったく異なる処分です。