暴行罪とは?
暴行罪(ぼうこうざい)は、些細な行為で成り立ってしまう罪です。暴行罪に該当する行為なのか、それとも暴行罪とまでは言えない行為なのか、判断に迷うケースもあります。この記事では暴行罪とはどのようなものか、暴行罪を犯した場合にどのような刑事手続きになるか等について解説します。
暴行罪とは?
暴行罪に該当する行為とはどのような行為か、暴行罪に該当するとされた場合に受ける刑罰、暴行罪の時効等について解説します。
暴行罪の構成要件
暴行罪は刑法第208条に規定されている罪です。
刑法第208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
引用:e-GOV法令検索
これによると構成要件は以下3つです。
- 故意に
- 人の身体に対する暴行を加えた
- 傷害の結果に至らなかった
暴行は、人の身体に対する不法な有形力の行使とされています。故意に人の身体に対する不法な有形力を行使した結果、傷害が生じなかった場合に成立する罪が暴行罪です。
具体的に暴行に該当するとされるのは以下のような行為です。
- 殴る、蹴るなどの暴力行為
- 近くで刃物を振り回す、殴りかかって当たる寸前で止める行為などの、怪我の危険性がある行為
- 携帯用拡声器を用いて耳元で大声を発する行為 など
暴行罪の刑罰
暴行罪の法定刑は2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金または拘留若しくは科料です。暴行罪に該当する行為は幅広いのと同様に、刑罰も幅広く設定されています。
もっとも、このうちの拘留や科料が科されることはほとんどなく、懲役刑か罰金刑となることが大半です。
暴行罪と傷害罪の違い
殴る蹴るなどの暴行行為をした結果被害者がけがを負った場合には傷害罪になります。
刑法第204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
引用:e-GOV法令検索
暴行罪の成立要件は「故意」に「暴行」を加えたことですが、傷害罪は「故意」、「暴行」に加えて「傷害」の結果との間に「因果関係」があることが必要です。
暴行罪と傷害罪の違いは以下2つです。
- 暴行罪は傷害という結果を伴わない犯罪であるが、傷害罪は傷害という結果を伴う犯罪である
- 傷害という結果が生じることから暴行罪よりも傷害罪の刑が重い
暴行罪の時効
暴行罪の時効は3年です。
刑事訴訟法第250条第2項 時効は、人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによって完成する。
6 長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については3年
引用:e-GOV法令検索
暴行罪が成立するのはどこから?
暴行罪が成立するとされるのは、どのような態様からでしょうか?具体例を挙げながら解説します。
暴行罪が成立するケース
暴行罪が成立するためには、「故意」が必要です。わざと他人の身体に対し不法に有形力を行使することが必要ですが、人の身体に向けられたものであれば足り、必ずしもそれが人の身体に直接接触することを要しません。ただし、少なくとも相手の五官に直接間接に作用して不快ないし苦痛を与える性質のものであることが必要です。
判例
- 電車に乗ろうとしていた被害者を取り囲んで衣服を掴み引っ張る行為が、相手に怪我をさせるおそれが無くても暴行罪にあたると判断されました(大審院昭和8年4月15日判決)。
- 被害者に対して大さじ2杯程度の塩を振りかけた行為が相手方に不快嫌悪の情を催させるに足りるものとして暴行罪にあたると判断されました(福岡高等裁判所昭和46年10月11日判決)。
- 被害者に石を投げつけたがそれが被害者にあたらなかったとしても、人に向かって不法な物理的勢力を発揮することで、その物理的力が人の身体に接触しなかったとしても暴行罪にあたると判断されました(東京高等裁判所昭和25年6月10日判決)。
暴行罪が成立しないケース
暴行罪が成立するためには、「故意」が必要です。犯罪事実を認識・認容していること、わかりやすくいうと、わざと人に対する有形力を行使しないかぎり、暴行罪は成立しません。
途の曲がり角でたまたまぶつかって相手が転んでも暴行罪は成立しません。伸びをしたらたまたま後ろを通りかかった人を殴ってしまった場合も暴行罪は成立しません。
補足:暴行罪で警察が動かないのはどんなとき?
暴行罪は被害者が負傷していないため、物的な証拠がほとんど残りません。周囲の人からの通報で駆け付けた警察官に現行犯逮捕されたり、防犯カメラの録画が証拠として残っている場合などでは後日逮捕されたりしますが、証拠が何もない場合には警察に暴行被害を訴えても動いてくれない可能性があります。
暴行罪と正当防衛の分かれ目は?
人の身体に対する有形力の行使が、相手からの働きかけ(攻撃)に対する防御行為だった場合に、どこまでが正当防衛として認められるのでしょうか?
正当防衛が成立するためには以下3つの要件が必要です。
- 急迫不正の侵害があること
- 防衛の意思があること
- 過剰防衛でないこと
正当防衛が認められるためには、相手から現に侵害されているか、侵害が差し迫っていることが必要です。現に殴られている場合や、殴りかかってきた場合などです。
殴りかかられたことに対して防衛の意思がなければなりません。相手が手を出して来たのでチャンスとばかりに殴り返すのは正当防衛にはなりません。
暴行罪ではなく正当防衛が認められるためには、過剰防衛ではないことが必要です。過剰防衛とは、相手から受けた行為に対する反撃行為が行き過ぎることです。
例えば、拳を振り上げて殴りかかってきた人に対して包丁を振りまわして刺してしまった場合には、過剰防衛となる可能性があります。また、殴りかかってきた相手が攻撃をやめたあとに何度も殴り返す行為も過剰防衛となり、暴行罪や傷害罪に問われる可能性があります。
暴行罪の具体例
暴行罪とされる具体例を見ていきましょう。
幅寄せ等行為
幹線道路における自動車への幅寄せ行為、進路妨害行為、後ろから異常に接近してあおる行為などは、相手の車にぶつからなくても車間距離の異常な接近、幅寄せなどといった行為が有形力の行使にあたります。
髪の毛を切る
他人の髪の毛を許可なく無断で切る行為も暴行罪にあたるとされます。ただ、場合によっては傷害罪を認めた裁判例もあります。
音響、光、電気、熱等のエネルギーの作用を人に及ぼす
相手の身辺で殊更に太鼓等を連打し、頭脳の感覚が鈍り意識朦朧とした気分を与え、又は脳貧血を起こさせたりする程度にさせた場合も暴行罪にあたるとされました。
暴行罪で逮捕されたらどうなる?
暴行罪で逮捕されてしまった場合にはどのような手続きになるのでしょうか?
暴行罪で逮捕されるか?(検挙率84.4%、逮捕率約43%)
令和2年版犯罪白書によると、暴行罪の検挙率は平成15年頃から徐々に上昇し、令和元年の検挙率は84.4%となっています。刑法犯全体の検挙率が39.9%であることを踏まえると、暴行事件の検挙率は高い水準です。
また、2020年検察統計統計表によると、暴行罪の被疑者の逮捕率は約43%となっています。暴行罪はそれほど重大犯罪ではありませんが、逮捕される率は低くありません。
暴行罪で逮捕された後の流れ
暴行罪で逮捕された場合も、通常の逮捕と同じ流れになります。
- 逮捕後48時間以内に検察官に送致または身柄解放されます。
- 検察官送致後24時間以内に裁判官に勾留請求あるいは身柄解放
- 勾留請求が認められると原則10日間、延長されると更に最長10日間、身柄拘束が続きます。
- 勾留期間満期前に起訴または不起訴になります。
- 起訴されると公開の法廷で刑事裁判を受けます。
- 執行猶予が付けば身柄が解放されますが、実刑判決の場合には収容されます。
暴行罪で身柄拘束されるか?(勾留請求率79.2%)
令和2年版犯罪白書によると、暴行罪の勾留請求率は79.2%です。これは刑事事件総数の勾留請求率92.3%に比べると低い数字ですが、暴行罪でも勾留される可能性は高いです。
暴行罪で起訴されるか?不起訴になる確率は?(起訴率約30%で推移:検察統計)
暴行罪でも起訴されてしまうのでしょうか?暴行罪の起訴率は検察統計によると約30%で推移しています。
暴行罪の場合、被害者に怪我を負わすまでに至っていません。被害者との間で示談が成立している、被疑者に前科がない、犯行態様が悪質ではない、という場合が多いことから、不起訴になる確率が高くなっています。
暴行罪で起訴された後の流れ
起訴には、略式起訴と通常起訴の2つがあります。暴行罪で起訴された場合、どのような流れになるのか、それぞれ解説します。
略式起訴された場合
略式起訴とは、検察官が簡易裁判所に提出した書面の審理のみで罰金もしくは科料の刑罰の言い渡しを求める手続きです。公開の法廷が開かれずに書面審理だけで終わるため、手続きが早く終わります。公開の法廷で審理が行われないため、誰にも知られずに済みます。
略式起訴は、簡易な手続きで進められるため被疑者にとってはすぐに終わるというメリットがありますが、略式起訴に同意すると有罪となるため、前科がつくというデメリットもあります。また、略式起訴の場合には書面審理のみで量刑判断されるため、被告人は自分の言い分を裁判官に伝えることができません。
略式起訴は被疑者の同意が無いとできない手続きです。裁判官に自分の言い分を聞いてもらいたい場合には略式起訴に同意すべきではありません。検察官から略式起訴への同意を求められた場合には、同意する前に弁護士に相談することをお勧めします。
公判請求された場合
暴行罪で公判請求された場合には通常の刑事裁判手続き同様、公開の法廷で事件の審理が行われます。公開の法廷で審理が行われるため事件の内容が他人に漏れるリスクがあります。
刑事裁判の手続きは、冒頭手続、証拠調べ手続、弁論手続を経て判決の言い渡しがされます。それぞれの手続きでは以下のことがおこなわれます。
冒頭手続
- 人定質問
- 起訴状朗読
- 黙秘権の告知
- 被告事件に対する陳述
証拠調べ手続
- 冒頭陳述
- 検察官の立証
- 被告人側の立証
- 被告人質問
弁論手続
- 検察官の論告・求刑
- 弁護人の弁論
- 被告人の最終陳述
- 弁論終結
これらを経て裁判官が判決の言い渡しをします。
暴行罪で執行猶予は得られる?
略式起訴された場合には罰金もしくは科料の刑罰の言い渡しがされるため、執行猶予はありません。略式命令に記載されている金額を検察庁に納付後すぐに釈放されます。
通常起訴された場合には事件についての審理が公開の法廷で行われます。
暴行罪の量刑はどのように決まる?
刑事事件の量刑を決めるのは裁判官です。法定刑は2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です(刑法第208条)。
裁判官は審理の結果、被告人を有罪と認めた場合には、どのような刑を言い渡すか決めます。一般的には以下を考慮して判断します。
- 犯罪の結果がどれくらい重いものか
- 犯行がどれくらい危険か
- 動機や経緯に照らして被告人をどれくらい非難できるか
- 被害者への弁償の程度
- 前科の有無
- 更生環境の有無
- 被告人の反省の程度 など
犯行時の事情は変えようがありませんが、犯行後の事情は被疑者の努力、周囲の方々の協力で改善できます。被害者への謝罪や示談の成立、通院の指導等、弁護士は犯行後の事情が被疑者にとって有利になるようお手伝いをします。
まとめ
暴行罪を犯した場合、逮捕されるか、逮捕された後最大20日間も勾留されてしまうか、起訴されてしまうのか、など心配になることでしょう。暴行罪の逮捕率、勾留率、起訴率は他の刑事事件と比べるとやや低い数字となっています。とはいえ、一定数起訴されていることから、検察官が起訴すべきと考える可能性があり、起訴された結果前科が付くことも考えられます。
被害者との間で示談が成立すれば不起訴になる可能性が高くなります。事件を反省し前科を付けたくないと思っている場合には、被害者との示談交渉等について弁護士にご相談ください。