本件は、不二子の夫である不二夫が愛子との間に不貞関係に及んだ結果、精神的苦痛を被ったとして、不二子が、愛子に対し、慰謝料1000万円及び弁護士費用100万円の支払を求めたのに対し、愛子が、不貞行為に及んだ時点で既に不二子・不二夫間の婚姻関係は破綻していたとして争った事案です。
不二子と不二夫は、共に医師で子が3人います。愛子も医師で、愛子の勤務する病院に不二夫が就職してきたことで両者は知り合いました。香港で開催された学会に、不二夫と愛子が出席し、香港のホテルにおいて両者は性交渉に及びました。
裁判所は、愛子は、不二子との婚姻期間中に不二夫との性交渉に及んでおり、これが不貞行為に該当することは明らかであると判断しています。
香港の学会から1か月ほどして不二子と不二夫の離婚届が提出されており、不二子本人も、押印まではしなかったものの署名をしたことは認めています。離婚届作成の時期と不二夫と愛子が初めて不貞行為に及んだ日との間は1か月も離れてないため、不貞行為開始時点の当時も、不二子・不二夫間の婚姻関係は、決して順調ではなく相当程度に悪化はしていたものとされました。
しかし、その一方で、不二夫が離婚に向けた行動を開始したのは、愛子との不貞行為に及んだ後で、それまで不満を抱えながらも不二子と不二夫とは同居を継続していたのは日常的な不満の域を出るものではなく離婚を決断する程度の状況にはなかったのであって、不二夫による不貞行為という事実以外に決定的な破綻事由が見受けられないと判断されています。
不貞行為に及んだ時点の愛子は、不二夫に配偶者がいることを認識していた、故意によるものと言わざるを得ない点でも、愛子が不二子に対して不法行為責任を負うことは明らかでした。
このように不二子と不二夫との婚姻関係が決定的な破綻状態へと進んでしまったことによって不二子が多大な精神的苦痛を被ったもので、最大の要因は愛子と不二夫との間の不貞関係にあるものと認めることができるものの、その一方で、届出意思の不存在から離婚自体は無効とされたものの、本件離婚届の作成に及んでいるという点では、不二子と不二夫との間の婚姻関係は、完全な破綻とはいわないとしても、すでに良好とは言えない状況にあって、不二子にも離婚という選択肢が存在していた程度には破綻状態が進行していたことは否定できず、愛子が負うべき不二子に対する慰謝料額は90万円が相当との判決が出ました。
当事者の情報
不貞期間 | 約1年 |
請求額 | 1100万円 |
認容額 | 99万円(うち慰謝料90万円) |
子供人数 | 3人(13歳、11歳、6歳) |
婚姻関係破綻の有無 | 婚姻関係は、決して順調ではなく相当程度に悪化はしていたが、決定的な破綻状態に至っていたとみるのは困難 |